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ToV - 黎明の羽根
第一部
1

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一見する限りでは無害そうな男だ。

激しく憤慨するカロルを前にして、
蒼い瞳をあちこちに彷徨わせ、困惑を露にしている。

その容貌から察するに自分と同年代辺りだろうか。
まるで故郷の街に溢れ返っている貴族が持ちそうな、小綺麗な衣装に身を包んではいるがその佇まいに嫌味はない。むしろ良心的な雰囲気だ。

だが、人間は見た目では判断できない事を知ってるユーリは気を緩めない。
拳をわななかせる首領を落ち着かせ、状況を聞こうと試みる。


「ユーリはそんな真似しないよ!」


しかし、自分が口を開くより早く発せられた怒声にその意気は掻き消されてしまった。

止むなく閉口するものの心に何かが引っ掛かる。
カロルと初対面の男との会話の中で、何故自分の名前が出るのか。


「だけど」
「だけど、じゃなーいっ!」


耳を劈(つんざ)くような絶叫が、何かを言い掛けた青年の言葉を隠す。

…事情を尋ねるならこの男に聞いた方が早いだろう。
そう判断し、冷静さを欠いたカロルを自分の背後に押し退けるようにして一歩進み出ると、接触を試みた。


「よう。随分とうちの首領を鳴かせてるみたいだけど、何があったんだ?」


目の前のこの男が敵対する者か否か判別は付かないが、仲間が威嚇している様子に感化され自ずと皮肉を交えた口調になってしまう。

埒の明かない問答に段々と疲れてきたのか。僅かに皺の寄る眉間に指先を添えた青年の瞳が揺れ動き、真っ直ぐにユーリを見据える。
そのまま額の掌を自身を胸元へと置き換え丁寧に一礼。初対面らしい挨拶すらそこそこに突然声を掛けた自分に対して丁重すぎる振る舞いを目にして、ユーリは彼にややいけ好かない印象を覚えた。


「初めまして。俺はライアンと申します」


名乗ると共ににこりと微笑む。
まるで仮面のような、表面上だけという感じを受ける笑顔だ。
その証拠に銀髪の狭間から覗く蒼い瞳は冷たく、ほんの微かな敵意が入り混じる――妖艶な雰囲気さえ放っている。

カロルという年下の少年に散々罵倒された後では当然の反応かもしれない。


「良かった、やっと会えて」


安堵の声と共に溜め息を吐き出す。
先ほどの人懐こそうな笑顔は消え、険しく変化するその表情からは心労が汲み取れる。

カロルは相当怒り心頭のようだ。
ユーリの背後に隠れながらも尚も相手を威嚇して、鋭い眼光を放っている。
その様子を横目で一瞥すると、再び彼に問い掛けた。
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