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その一手を紡いでいげば
緒方
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ることがあるだけです」

 緒方は心配する天野に棋士の病ですと冗談?を言ってから愛車のもとへ急いだ。

 その愛車を、緒方は法定速度ギリギリのスピードで飛ばしていた。赤に変わった信号に理不尽な怒りを覚えたが、もちろん緒方はきちんと停車する。

 その僅かな時間に、緒方は無意識のうちに煙草をくわえて火を付けた。

『確か進藤は棋院で対局中だったな』

 まだSaiと断定できたわけでないのに、緒方はつい進藤と結びつけて考えてしまう。 それは仕方ないことだろう。

 碁打ちなら誰もが刮目するであろう名人とSaiの名勝負。その直後に進藤と塔矢名人の会話を聞く機会を得た緒方は、進藤とSaiに何らかの繋がりを持っていると半ば確信めいた疑いを抱いていたのだから……

 とはいえ、緒方が決定的な証拠を掴んだわけではない。実際、緒方の師匠である塔矢名人の庇護に入った進藤が惚けられ、それ以上この線から追及の仕様がなかった。

 そして、手をこまねいているうちに肝心のSaiはネット碁界から姿を消してしまった。さらに、緒方自身も塔矢名人の引退後にタイトルホルダーとなり、Saiの調査に時間を割けくなる。

 結局、緒方はSaiと対局する機会を逃してしまった。

「こいつがSaiと思われているユーザー……」

 帰宅した緒方は早速パソコンを立ち上げてネット碁サイトにアクセスした。そしてすぐにToraJirouなるユーザーを見つけて棋譜を映し出す。

『打ち筋はSaiを思い出す。隙のない円熟した読み、そして一柳先生を一捻りにする棋力か。確かにSaiであってもおかしくない』

 しばらくしてから、緒方は納得するように頷いた。緒方の勘は本物と告げている。

『対局を申し込みする際は棋譜、強いユーザーとの対局結果を示して、お気に入りユーザーに登録してくれるのを待つだったな』

 院生から教わったルールを思い出し、緒方は手順通りに対局を申し込んだ。Torajirouも対局したことのある一柳に勝った棋譜を出した緒方は、お気に入りユーザーに選ばれる自信はあった。


 あとはTorajirouの出現を待つだけなのだが、残念ながらログイン日時に規則性はないようだ。緒方は集中出来ないことを自覚しつつ、再び週間碁を広げて宿敵の対局を分析する。

『ようやくTorajirouがログインしたか』

 Torajirouがお気に入りユーザーの登録を始めた。当然、緒方もお気に入りユーザーに選ばれる。

 院生の話によれば、ToraJirouは新規のユーザー登録を終えると、対局可能日時を知らせて対局者を求めることが多いらしい。

 緒方は興奮しながらお友達ユーザー登録作業を終えたToraJirouからのお知らせを待った。

 だが、緒方のパソコンがうんともすんとも言わない。何故かToraJirouのお気に入りユーザ
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