第五章
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第五章
唯は一旦カウンターから引っ込んでだ。暫くしてだ。
夜の女の人が出て来た。その彼女がこう忠志に言うのである。
「これでわかってくれましたか?」
「そうだったんですか」
「夜はバーに合う様にお化粧しているんです」
そうだというのである。
「それでこうして」
「じゃあお昼も夜もですか」
「経営してるんですよ。私が」
「ううん、まるで別人ですけれど」
「けれどこれでおわかりになれましたね」
「はい」
呆然としながらだ。忠志は唯に答えた。
「そうなんです」
「そうですか。これは正直驚きました」
「そうですか」
「はい。それでなんですけれど」
「それでって」
「さっきのお話ですけれど」
にこりと笑ってだ。唯の方から言ってきたのである。
「そのことですけれど」
「あっ、それですか」
「御返事させてもらって宜しいでしょうか」
「是非共」
聞かない筈がなかった。その為に今ここにいるという意味があるのだ。
それでだ。忠志はだ。身を乗り出して唯にまた尋ねた。
「御願いします」
「はい、それではです」
「それでは」
「私でよければ」
これが唯の返事だった。
「御願いします」
「ということは」
「はい、私のことが本当に好きでいてくれてますよね」
それが理由だからだとだ。唯は話すのである。
「だから夜に。全部聞いてくれて」
「そうです。ですから」
「そこまで想ってくれるのでしたら」
「それで。僕と」
「そうさせてもらいます。ただ」
「ただ?」
「できたらですけれど」
一つだ。こんなことも言う唯だった。
「夜の私ではなく」
「夜ではなく」
「昼の私に聞いて欲しかったのですけれど」
「昼のですか」
「はい、今の私にです」
こうだ。夜の顔で言うのである。
「聞いて欲しかったです」
「すいません」
そう言われるとだ。忠志はだ。
申し訳ない顔になってだ。唯に話すのだった。
「それは。どうしても」
「けれど。今思ったのですけれど」
「今、ですか」
「昼の私も夜の私も私ですよね」
唯の今の言葉はこうしたものだった。
「そうですよね。それだったら」
「貴女に直接御聞きしたことになりますか?」
「そうなりますよね。やっぱり」
「そうですよね。それじゃあ」
そんな話をしてであった。二人は笑顔ではじめるのだった。唯の二つの顔も受け入れて。二人の愛を。
清楚と妖艶 完
2011・5・1
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