9話:ハラキリシグナル 戯言遣いと妖刀「鋸」
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「あのー、すいません」
転送されてから特に何をするわけでもなく歩き続けていたぼくに、話しかけてきた女性がいた。
学生服を着ているし、年来的に多分高校生ぐらいだろう。
「なんでしょうか?」
「人を探しているんですが、伊藤誠という人は見ませんでした?」
そのあとに伊藤誠という人物の身体的特徴を説明された。
「いえ、知りません」
「じゃあ、声が聞こえたとかは?」
「声?」
「はい。あの、最初にいた場所で叫んでいたの、確かに誠くんの声だったんです」
叫んでいた? 確かにあの場所では誰もが主催の女に罵声を浴びせていた。羨ましい限りである。もちろん戯言だが。
しかしあの中から一個人の声を聞き分ける事などできるのだろうか。哀川さんでもあるまいに。
「いえ、その…最初に澤永さんの首輪が爆発したときに」
「ああ…」
あのとき首輪が爆発した男の名前を呼んでいたのが、その誠くんか。
「ごめん。実は人と会ったのも声を聞いたのも君が初めてなんだ」
「そうなんですか? それは失礼しました」
礼儀正しくぺこりと頭を下げる。
「いえ、こちらこそお役に立てずすいません」
ぼくがそう返すと、それでは私はこれで、と彼女は去っていった。おそらくもう会うことはないだろう。ぼくはこの時はそう思っていた。
彼女が行った後、ぼくは運良くすぐ近くに小屋を見つけた。
とりあえず少しの間身を隠すところが見つかった。
近づくと、この小屋の名前らしい看板が見えた。もっともぼくはそんなものを見る前に、ある程度近づいた瞬間にその建物の名前がわかっていたわけだけれど。
「さいとう、診療所?」
西東診療所。
人類最悪が、不老不死の少女を研究して。
准教授が、それを引き継いで。
殺戮奇術の妹と、姫ちゃんが命を落とした場所。
「なんで、ここに?」
中に入ると、そこにはぼくの記憶にはっきり残っている光景がそのまま写し出された。
ぼくはデイパックから地図を取り出す。
裏面にはびっしりと施設の名前が書かれており、7-Cに西東診療所を見つけた。
他にも、知っている言葉があった。
9-C骨董アパート。10-J澄百合学園。1-A斜道郷壱郎研究施設。
どうなっているのか見当もつかない。
だいたい骨董アパートと澄百合学園は既に倒壊したはずではなかったのか。
まあ、どこに行くか予定ができたのは良かったが。
地図をしまおうとしたときに、何か緑色のものが覗いた。それを取り出してみると、まだら模様の大きな卵だった。
なんだろうと思っていたその時、女性の大きな悲鳴が響いた。びっくりしたぼくはその不気味な卵を取り落とし
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