魔石の時代
第三章
世界が終わるまで、あと――2
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のだから。
もっとも、この『右腕』は世界を滅ぼした『マーリン』のものだ。厳密には、恩師の相棒だった『マーリン』のものだが、その微妙な差異に気づける人間などいまい。というより、そもそもマーリンやリブロムを知る人間などすでにいない。旧世界の知識を多く有しているサンクチュアリですら……その指導者たる少女ですら、遠い祖母の物語に出てくる人物としてしか知らないのだ。そのおかげで自分が右腕を見せた途端に悲鳴をあげそうになった。……正確には、悲鳴の代わりに魔法が飛んでくるところだったが。
ともあれ、結局自分は『右腕』もろともに正体を隠し、彼女に協力する事となった。とはいえ、それでは色々と不都合である。そのため、表向きは偽りの名を名乗り、サンクチュアリの一構成員……まずは見習いとして参加する形になった。
そこで、自分は初めて体系だった魔法の訓練を受ける事になる。文字通り実戦形式でしか魔法を使った事がない自分にとって、それは有意義なものとなった。恩師を経由して魔法大全を受け継いだとはいえ、正規の継承ではない。自分も恩師も『ムニン』ではなかったのだから当然だ。右腕に封じ込めたその叡智を風化させないためにも、そして自分の使命を果たすためにも魔法について精通しておくのは無駄ではない。
サンクチュアリおよびグリムの最高指導者とも面識があったとはいえ、恩師は生涯にわたってアヴァロンの魔法使いだった。その数奇な運命と、魔法大全の継承。その後の『奴ら』との永遠の殺し合いの中で、彼は破壊の力を極めたと言っていい。しかし、その一方で癒しの力に関しては不得手と言わざるを得ない。だが、サンクチュアリはまさにそれの専門家達が集う。不足を補う環境として、これ以上の場所はなかった。
もっとも、自分がサンクチュアリに正式に加入する事はなかった。……彼女から自分の出自を知らされてなお。
自分は、終わりゆく世界の中でそれでも救いを叫び続けたゴルロイス――エレインの後継者にはなれない。何故なら、自分はリブロムとマーリンを――先代の『名もなき人』とその相棒を犠牲にして今の世界を作りだしたのだ。そんな自分が彼女の後継者を名乗るのは、彼女の生き様を汚す事にしかならない。
だから、自分は■■■■■■■■■■■と名乗る事にした。二代目ゴルロイス――エレインの後継者ではなく、ジェフリー・リブロムの後継者であると。
2
殺戮劇。
その光景に名前をつけるなら、それがしっくりくる。それも、圧倒的なまでに一方的だ。あまりに一方的すぎて、惨劇にすらならない。まるでそうあるべく定められているかのようなその光景は、単純に屠殺場を思わせた。
「クロノ、あなたよく無事だったわね……」
艦長が思わず呻くのが聞こえた。ああ、だが確かにそう思う。あんな怪物に襲われて、よく生きていたものだ。
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