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月下遊歩
月下遊歩
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…」
未だに乱れた呼吸を整えていたゆきのその表情が、徐々にだが引き攣った。
俺は若草の絨毯の、俺の背中を押し返さんとする弾力をこの背に楽しみながら、ゆきに視線を向けた。逆さに映るゆきの引き攣った表情と、どことなく寂しそうな様子を視界に収めつつ、手招きは止めない。
「……汚れちゃう。」
「来てみなって、ここいい景色なんだぞ?」
「……」
そうは言ってみても、やっぱりゆきはどことなく乗り気ではないらしく、その場でもじもじとしながら両手を両腿の間辺りで通わせていた。
しかたないな……。
「っこらせっと。」
俺は気合の掛け声を一つ、若草に片手を突き、力強く立ち上がった。そのままもと来た斜面をゆっくりと登り上がり、斜面上でもじもじとこちらへ来たそうに、でも今までの他人とも自然と言う自然とも触れあうことがなかった生活からの躊躇もあったのだろう。来たくても来ることができないでいた、ゆきの後ろに立った。
確かに、服が汚れるのは嫌だってことも理由の一つだろうけれど。そんなこと些細なことだろうよ。
「……」
今まで……俺は雪に少し、優しくし過ぎていたのかもしれない。
「……しき?」
「待ってて。」
ぽんっとゆきの頭に手を乗せて、一つ。二つと撫でた。俺は左手をそのまま真っ直ぐに立つ、ゆきの膝裏にかけて。もう一方右手は同時に、背中から右肩にかけて這わせるように支える。そのまま一気に俺は左手に力を込めて、ゆきの足をはらうように持ち上げれば、ゆきの身体は軽々と浮いて、俺の腕と胸元にすっぽりと収まった。
「……え?」
「ゆき、軽いね。」
ボーっとしたゆきの目は徐々に見開き、月明かりにさらされた頬は仄暗くてもわかるほどに赤みを帯びていった。
ゆきを横抱きするのも久しぶりか。俗に言うところのお姫様抱っこってやつだ。
ゆきの身体を両手と胸元で支えながら、ゆきの暖かさを身体で感じる。ゆきの長い髪が風に舞い、俺の手元に掛かる感覚がくすぐたい。
「し、しきっ、おろしてっ……」
「んー、そこまで行ったらな。」
俺は体を強張らせたまま微動だにしないゆきを抱きかかえたまま、寒風に騒めく若草を踏みしめて、先ほどまで俺が身体全体を寝そべらせて休めていた辺りまで歩を進める。
さすれば見えてくる、眼下に広がる、どこまでも広大な平原地帯に生い茂る若草に、青々とした壮年迎えの逞しい草。月明かりに仄暗く光を放つは、コスモスの鮮やかな色彩か。芒の黄金色に熟した穂もまた、この秋空にぽっかり浮かぶ名月の仄かな灯りをその身に受けて、秋風にその身を揺らしていた。
どこまでも広がる広大な平原。遥か先に見えるは既に雪を被った連山と、山頂から麓まで生え伸びる、これまた広大な山林。幾つも見える山頂のなんと素直な形か。全ての山々は連なれど、一つ一つの山は綺麗に山と呼ぶにふさわしい形をしてい
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