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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十二話 貴人たちは溜息をついた
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?英康閣下には――」
「いいさ、俺はいつだって好きにやっているのだから。何も背負う事もないし背負えることもない」
 護州公子が遊具を放り投げる童のような口調で言った。
「定康様――」
 松実は言葉を終える事無く定康によって口に菓子を放り込み、顔を見せぬように寝返りを打ちながら呟いた。
「何、叔父上殿を邪魔立てする気はない、だが少しは俺も遊んでみるのもいいだろうさ」
と言い目を白黒させながら菓子を飲み込んだ松実に笑いかけた。
「馬鹿な事を、とおもうだろ?だが、誰もがそう思うから面白い、あぁ、その程度の考えなのさ」
 熱っぽくだがどこか虚無的なものを秘めた笑みを浮かべ、そして深く、酒の残り香がただよう息を吐き出した。



同日 午後第七刻 弓月家上屋敷
弓月家三女 弓月碧


 故州伯爵・弓月家の晩餐はいつもよりも賑やかであった。弓月家の長女とその夫が彼らの屋敷を訪れているのである。
 その為、当主の内務省勅任参事官の弓月由房も外務省通商課員の葵も、屋敷に戻っていた。
「そうかい、葵君の方も中々厳しいか」
 芳峰雅長子爵は杯を片手に義弟に尋ねた。彼は芳州子爵でありながら、芳野山地有数の鉱山とその工業都市を経営している財界の有力者であった。
「はい、アスローンとの交易は強行突破を行うしかありませんね。あちらもあちらで帝国諸侯軍と殴りあっていますから、通商破壊の投入戦力が減少する可能性は低いです。
こちらからアスローンに働きかけるにしても交易路を安定させませんと互いにどうしようもありません。いやはや複数の敵を同時に殴れるというのは羨ましいものです――水軍局やら統帥本部やらと打ち合わせばかりですよ」
 葵が肩を竦めて言った。
「ふぅむ、やはり民生に悪影響は出るか?」
 由房伯爵もまた、高級官僚の顔で尋ねた。
「軍需次第ですが、やはり悪影響は避けられないでしょうね。どうしても交易が滞ると嗜好品の不足は否めないですし、鉱物や建設資材に至っては軍部からの需要が高まっている以上、国内の増産に手を伸ばす必要があると思います」
 青年の言葉に芳峰も頷いた。
「そうだろうな。私たちもそれを考えているところだよ」
 夫の言葉を弓月家長女である吉峰紫がひきとる。
「元から鉱山やら工場やらの拡大自体は考えていましたの。それでも想定以上に早く、より大規模に行う必要がありそうですね」

「増産はありがたいですね。戦後も通商黒字になる体制が整うのですから大歓迎ですよ」
 葵が笑みを浮かべて言った。

「あぁ、こちらとしても売れるのなら大歓迎さ」と義弟に笑いかけた芳峰は義父に向き直って言った。
「だが、そうなると豊守殿とお話しする必要があるのです。御義父様から都合をつけていただいて感謝しております」

「うむ、だが何を話
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