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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十二話 貴人たちは溜息をついた
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を浮かべた。
 ――困難ではある、この将家と言う幻想を護るために非道に手を染める事もあるだろう。だが故に、だからこそ、政治と言うものは面白いのだ、脳が痺れる程に。あぁ何とも度し難い――これこそが権力者と言う蜜の味なのだ。
「だが御国を諦めるのも、駒州を諦める事も出来ぬ、我らは駒州公爵駒城家なのだから」




同日 午後第二刻 守原家上屋敷
護州公子附き個人副官 宵待松実


 五将家の二番手にしてある種もっとも将家的な家風を持つ守原家、その上屋敷に住まう者達もまたこの〈皇国〉の実権を握りしめようと彼らなりに奮闘しており、龍口湾の戦いにおいても彼らは自身の為に動いていた。

「須ヶ川め、役に立たん奴だ。草浪もつけてやったというのにこれでは西津と駒城の餓鬼どもに手柄をくれてやっただけだ。
第二軍の連中も痛打を受け、近衛も龍州も軽くない手傷を負うとなると第三軍の連中の独り勝ちではないか!」
 五将家の雄と称される守原家を事実上取り仕切っている男、守原英康は鼻息も荒く龍州鎮台司令官を罵り、それどころか感情に任せて龍口湾に参戦した者すべてを罵っている。
 無論、彼がそのような振る舞いを見せるのは身内の席であるからこそである事を理解していても気分の良いものではない。
彼女(かれ)の主である定康も適当に同調して見せながら酒を呷る。普段から投げやりな態度である為、よほどの間柄でなければ普段と変わらぬようにしか見えないだろう。
 まぁそれはそうとして、守原英康大将閣下は愚痴を怒鳴り散らすだけ怒鳴り散らすとなんやかんやで多忙な身であるのだろう、外出していった。
 
「叔父上も、妙なところで吝嗇になるものよな。北領鎮台も捨てたのだから今更、兵を渋らなくても良かったろうに」
 などと言いながら宵待の膝の上に頭を乗せ定康は卓上の茶菓子を齧った。
「まぁ俺が思ってるよりも御家の財布が不味いのかもしれないがな。
どうする、松実。一緒に逃げるか?」
 無言で松実は微笑を浮かべる。それが主の求めた答えだと分かっているからだ。
「ふん――さて、俺もどうしたものかな。叔父上殿だけに任せるのも心苦しいものだ。局面が動いた以上、俺も少しは動いてみるとしよう。馬堂との伝手を動かしてもいい」
 馬堂豊長との?がりはあくまで手紙による交流のみであるが、切れてはいないし、互いに切るつもりもない。
 だが、同時に政治的な入用も殆ど行っていない。功的に発表された事の確認や、感想の交換程度のものである。で、あるからには後世の研究家たちにとっては各々の立ち位置や思考をくみ取る手がかりとして貴重な史料であるが、彼らの生きる皇紀五百六十八年において、その内容に政治的な価値はほとんどない――無論、コネクションとしての価値は侮る事はできないが――
「宜しいのですか
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