4部分:第四章
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第四章
その中でだ。彼はいつもより明るい顔になっていた。その顔で学園生活を過ごしていた。それはまるでこの世の至福の中にいるかのようだった。
そんな彼を見てだ。周囲は呆れながら言うのであった。
「だから誰が見てもわかるっての」
「本人といつも一緒にいられるからなあ」
「部活を理由にな」
「まあ私達が仕組んだんだけれどね」
「それでもね」
笑いながらも何処か暖かい言葉であった。
「しかし。それにしても」
「何ていうかな」
「これで上手くいく?」
「いけるかな」
「間中さんはいいっていうんだろ?」
一人がこう言った。
「じゃあいけるんじゃないのか?」
「後はあいつだけか」
「あいつがどうするか」
「それだけか」
「ああ、それだけだよ」
まさにそれだけだというのであった。
「あいつが。一歩踏み出すかどうかだな」
「できるかな、あいつ」
「今まで一歩も踏み出していないのに」
「それでも」
「だからそこはあいつ次第だろ」
雄一郎がどうするかというのである。
「折角本人を前にしてるんだからな」
「それでどうするか、か」
「本当に一歩踏み出すだけだけれど」
「それが果たしてできるかどうか」
「そうなのね」
「それだけだけれどな」
こう話がされるのだった。
「後はな」
「さて、それじゃあ」
「よく見させてもらうか」
「あいつがどうするか」
「それをね」
周りは見守ることにした。そしてだ。
雄一郎はだ。ある日のことだった。
一枚の絵を持って理沙のクラスに行った。そのうえでその絵を差し出して。
「え、ええと」
「どうしたの?」
理沙の方が落ち着いていた。明らかにだ。既に自分の席を立ってそのうえで彼の前まで来ている。二人は向かい合った形になっている。
周囲はあえて見守るだけで何もしない。その中で理沙が言った。
「何かあるの?」
「よかったらだけれど」
話を切り出した。何とか。
「この絵、貰ってくれるかな」
紙に覆われていた。それを彼女に差し出しての言葉だ。
「本当によかったらだけれど」
「私になのね」
「そうだよ」
理沙は確認した。雄一郎もそれを受けた。
「この絵をね」
「わかったわ」
理沙は雄一郎を見上げて笑顔で答えた。
「それじゃあね」
「受け取ってくれるの?」
「だって。田所君の心よね」
こう雄一郎に言うのであった。
「そうよね。その絵って」
「心って?」
「そこまでのもの。断れないわ」
これが理沙の言葉だった。
「私にはね」
「心だから」
「実は待ってたし」
理沙は少し俯いた。はにかんだ笑顔になっていた。
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