序章
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かの伝説の刀工、四季崎記紀が鍛えし千本余りの日本刀。
九百八十八の通常、それらを習作とした十二の完成、そして完成をも習作とした完了。
通称「変体刀」と言われる千本は、その特性ゆえ、その毒性ゆえ――多くの人間を魅了し、虜にし、理性を失わせ――破滅へと導いてきた。
天下の覇権を争い、戦った武士たち。
変体刀の幻想に取り憑かれ、千本全ての蒐集を目論み、しかしそれを成し得なかった旧将軍。
完成形変体刀十二本が一本、「誠刀・銓」の特性により、世界の誤りを知り、正そうとした、飛騨城城主。
そして、その娘。
変体刀に関わった者の中で、自らの野望に最も肉迫した彼女だったが―しかしそれでも、想いを成就することは出来なかった。
そして、そして、そして――。
変体刀に狂わされた者たちを、数え上げればきりがない。
失敗して、失敗して。
無惨に、無意味に、無念に。
この物語に登場する者全員が、悔いの無いよう精一杯生きて――悔いを残して、死んだ。
しかしそんな中、生き残った者がいた。
精一杯生きたのに――死ねなかった者がいた。
即ち。
主人公――鑢七花。
そう。
彼はまだ、終わっていない。
物語がすでに終わったにも関わらず――否。
逆なのだ。
彼が生き続ける限り、物語は終わらない。
彼の死なくして、物語に終わりはない。
だから今宵は、彼の話をしようと思う。
終わったはずの物語―刀にまつわるこの物語において、終われなかった、言わば落伍者であるところの、彼の話をしようと思う。
彼の最期を―語ろうと思う。
それでは。
もしもあなたに、少しの時間と、強い覚悟があるのなら。
折れない心があるのなら。
対戦格刀剣花絵巻。
悲劇弔劇時代劇。
鑢語を―始めよう。
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