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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第九話 苗川攻防戦 其の一
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ら歓迎した。
「おぉ、よかった よかった 君に死なれたら我が大隊は崩壊するところだ。――割と本気で」

「中尉、現状は?」
 首席幕僚の問いに米山は息を整えながら帳面をめくる。
「どうにか持っておりますな。
砲の射耗が気がかりですが今の所はどうにか想定の範囲内に収まっております。
ただこうも砲撃が激しいといざという時の輸送が心配ですな
今日は余裕を持たせたつもりでしたが――」
 
「持つことを祈ろう、此方も余裕があるわけではないからな
まったく、俺も余裕をもって持たせたつもりだったのだが・・・・・万一砲が玉薬ぎれで沈黙したら目も当てられない」
 砲兵将校の馬堂少佐も舌打ちをした。
 彼は、兵站と火力こそが軍事の全ての基幹あると信仰している将校であり、その双方を欠く可能性のある采配をした自身が許すことができなかった。
「――首席幕僚、あのまま正攻法を続けると思うか?
それとも矢張り迂回するか」

「頭数だけならばどちらも可能ですね。
もっとも兵站が崩壊しかけているならば活発な行動はできないでしょう、迂回をするなら挟撃の際に全力で攻勢に出られるようにしなければ意味がありません」

「明るい知らせはそうそうなさそうですな」
 米山兵站幕僚も皮肉な笑みを浮かべて帳面を懐にしまう。

「分からん。だが、全てが上手くいくかもしれない。
この調子なら、迂回されても到着前に逃げ切れるかもしれない。
正面からの正攻法なら当分はどうにかできるだろう」



同日 午後第三刻半 東方辺境領鎮定軍先遣隊本部 
先遣隊司令官 シュヴェーリン・ユーリィ・ティラノヴィッチ・ド・アンヴァラール少将

「矢張り――正面からは困難、か」
シュヴェーリン少将は寂寥とした口調で結論を呟いた
 ――これでは攻城戦と変わらん。徒に兵力を損耗するだけだ。
だが、要塞と違って敵の最も厄介な要害は川である、即ち、別の渡河点から部隊を渡河して二正面作戦に持ち込めば、容易く突破ができる――と本部の幕僚陣から意見が出ている。
「ユーリィ、時間が有りません!明日にでも此処を突破しなければ――」
シュヴェーリンは自身の信ずる参謀長の言葉を手を振って遮り、彼の望む答えを告げた。
「――ハンス、カミンスキィ大佐を呼べ、それと直ちに参謀達に迂回渡河に必要な作業を策定させろ」

「糧秣を何とかして頂かない事には、閣下。
迂回するのに急いでも一日はかかります、これでは聯隊の手持ちでは不可能です。
腹を空かせた馬では突撃など出来ません」

ああ分かっているとも。それは全軍の抱える問題だ。

「他に方法は無いのだ。聯隊全体を動かす必要は無い、敵は一個大隊規模だ。
それに我々は挟撃をかけるのだ、主攻正面に我々が挟撃をかけ、半数以上の部隊が拘
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