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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第九話 苗川攻防戦 其の一
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期突破すら|不可能(・・・)です。」
 参謀長の――いや、戦友の言葉はシュヴェーリンを激しく動揺させた。
――不可能!!この男ですらそういうか!!

「命令を果たせなかったら・・・」
  ――信賞必罰、その言葉の後半は味わいたいたくない。


同日 午後第三刻
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊本部付近 掩体壕
大隊長 馬堂豊久少佐


「なぁ新城、もしも――もしもの話だが北領鎮台が
美名津、或いは内地への衆民を避難させ、真室川 或いは苗川沿いに築城
敵を誘引し水軍を使い奥津に揚陸、兵站集積所を占拠――は無理かも知れんが封鎖とかは可能だったのかな?」

「さあな、やってみない事には分からないが、敵は現在もそれを警戒しているだろう。
現在の状況でやられたら全員、餓死すら有り得る。」

「だ ろ う ね。敵さんも必死だ!っと」
 壕の側に着弾したらしく壕の中が揺れる。

「しかし、水軍か鎮台の参謀部が今頃考えているんじゃないか?
天狼からこっち、醜態を晒したが一応は戦時の軍参謀部に居る奴等だ、俺なんぞより優秀なのも居るだろうに」

「そう思いたいところだな」

「おいおい」
新城の木で鼻をくくった様な言い草に上官でもある豊久が苦笑する。
「まぁ、提案が出ても、採用されないだろうな」

「最高司令官が真先に逃げ出しちゃあ統率も厳しいと?」

「まぁな、何より守原英康本人にその気がないだろう。」
「ん?だが守原家は・・・」
 ――それはあの家の懐事情が許さないのでは?
 守原家の財政を支えているのはこの北領である事は将家事情に詳しい者ならば誰でも知っている事である。
「全てが終わってから総反攻、だろうな」

矢張り――そうなるか。
馬堂豊久は無言で目を閉じる。近い将来、内地で亡国への道が開く事を理解した。
「――まぁいい、今は、な。それより今は帝国軍だ、敵の迂回への妨害は仕込んであるし。
当面は正面に集中してれば大丈夫か?」

「あの馬防柵か、わざわざ手の空いた部隊を使ってまで作らせた分は効果がある
作りは簡素だがあれを排除するには砲兵が必要だ。迂回部隊の足を鈍らせる上に砲車を引く輓馬が糧秣を食い散らかす。細かいところで吝嗇で底意地が悪い人間ならではだな」

「実仁親王殿下の残した工兵中隊のお陰だ。
殿下は一番いい時に手持ちの商品を売りつけてきたよ、商人の才能があるな」

「不敬だな」

「褒めてるんだよ、つまり尊崇してるんだ。問題ない」
 かような戯言を北領の最終防衛線指揮官達が交わしているという恐るべき事態は米山兵站幕僚が転がり込んできた事で終結した。
「し――死ぬかと思いました、いや本当に」
 ぜぇぜぇと喘いでいる元輜重中隊副官に馬堂少佐は笑いなが
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