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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第九話 苗川攻防戦 其の一
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を渡ろうと密集した地点への正確な霰弾砲撃、渡河した二個中隊も敵の銃兵によって
掃討された――が。

「アルター、あの中隊は・・・何だ?」
 見た所配置されている部隊で十二分に排除出来た。
わざわざ切り札である猛獣を送り込む必要性をシュヴェーリンには感じられなかった。
――自分ならば塹壕に篭ったまま射撃を続けて数を減らし、濡れた服で凍えきったところで川へ追い返す。増援が来たら此方も増援を出せば良い。
 彼の信頼する参謀長も考え込んでいたが、やがて推論を告げる。
「分かりません――恐らく予備部隊では?」

「予備!?馬鹿な。如何してあの状況で予備を出すのだ。」
「此方の予想以上に余裕が無いのか・・・あるいは過剰兵力を投入したのか・・・」
アルター参謀長の仮定にシュヴェーリンは眩暈をおぼえた。
 ――過剰兵力!まるで悪夢だ。あの陣を突破するのにどれ程被害がでるというのだ!
 だがシュヴェーリンとて東方辺境軍では猛将と名高い円熟した戦術家であった。
即座に精神を建て直すと即座に参謀長に問いかける。
「――どちらにせよ真正面から挑んでいては損害が出るばかりだ。
アルター、何か策を。この泥沼から抜け出す策を。」

 アルター参謀長はその明晰な頭脳を巡らし言葉を紡ぐ。
「――西方に、橋が有った筈です。それを利用すればあの厄介な陣地を側背から突けます」

「あぁ確かに、だが彼処は、上苗橋は既に爆砕された。
川の流れは急で御丁寧にも向こうの指揮官殿は川岸を馬防柵でほぼ完全に封鎖して下さった、あれでは騎兵でも渡河は困難だ」
 
「騎兵部隊の他に排除の為に砲兵分隊を連れていかせては?」

「砲までも?そうしたら騎兵は一個大隊を送り出す事すら厳しくなるぞ?」

「カミンスキィ大佐は優秀な男です。彼に直率させれば士気を保たせる効果もありますし、単隊で行動しても機を逃さないでしょう。」

「カミンスキィ? いかん!!奴は――」
 そこで言葉が詰まった。シュヴェーリンにも彼の提案は極めて合理的である事は分かりきっている。
アンドレイ・カミンスキィは28歳の若さでありながら大佐に任じられている、その理由は能力だけではなく、東方辺境領姫にして〈帝国〉陸軍元帥であるユーリア・ド・ヴェルナ・ツァリツィナ・ロッシナの愛人であるからに相違ない。
勿論、その恩恵で与えられた立場に応えるだけの能力があるのは確かだろう。
そしてその立場を利用するだけの能力も十二分に。
「何より別働隊を出したら蛮軍主力を叩く余裕がなくなる。
騎兵は温存しなければならんだろう」
だがシュヴェーリンは忠誠心と保身からかの美姫を批判する事を避け、軍事上の常識へと話題を転じた
「しかしユーリィこのままでは損害が増えるどころか殿下からの命を果たす事も――早
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