暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第九話 苗川攻防戦 其の一
[3/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話

 人材の質には恵まれている事を感じた大隊長は諧謔と安堵が複雑に入り混じった笑みを浮かべた。
だがそれに浸る間もなく自陣からの砲声が間近に轟く。
 馬堂少佐の砲兵将校、秀才幕僚としての本能が即座に戦場分析へと意志の方向を切り替えさせた。
 
「砲の排除を最優先に、と言ったが、上手くいけばいいが。
これでは士気の維持にも一苦労だ」

「こう砲撃戦が続くと猫が怯えます。戦闘中なら問題無いですが。」
 西田は彼の猫――隕鉄を宥めながら言う。隕鉄は西田に顔を擦り寄せ、馬堂少佐にも少々怯えているのが分かった。
「ん、ならば予定通り猫は西方側道の警戒に使ってくれ、敵を十里先でも見つけるのだろう?」

「はい、大隊長殿。騎兵なら十五里でもいけますよ。何しろ馬は好物ですから。」
 西田の言葉に馬堂少佐は苦いものが混じった笑みを浮かべた。
「知ってるさ、これでも千早が子供の頃から見てきたんだ」
 ――駒州産まれでご先祖が馬飼い出身としては多少なりとも思う所があるんだけどね。
と出かかった声を喉元で殺す。彼も駿馬の産地である駒州出身の貴族である、一応は。
「――まぁいい。取り敢えず警戒網は信頼できる事は分かった。
西田少尉は一個小隊を連れて後方に回ってくれ。猫が反応したら導術索敵を行い
本部に伝達しろ」
「はい、大隊長殿。」
 砲撃が弱まると馬堂少佐は近くの壕へとかけこみ、そこに居た導術兵に叫んだ。
「金森二等兵!工兵に敵が次の突撃を行ったら合わせて爆破をさせるように伝達を!
冬野曹長!騎兵砲及び擲射砲は、対岸小苗橋正面へ斉射用意!爆破と同時に撃て!
鋭兵中隊と予備隊は渡河した敵を掃討せよ!」


同日 午後第ニ刻半
東方辺境領鎮定軍先遣隊本部 先遣隊司令官
シュヴェーリン・ユーリィ・ティラノヴィッチ・ド・アンヴァラール少将


「第36猟兵大隊渡河に成功しつつあります。」

「アルター、本当に我々は橋を無傷で奪取出来たのか?」
 ――爆破に失敗したのか?だが、それならば砲で破壊するように調整してありそうなものだが。
そう考えていると爆音が響きわたった。
 見ると渡河を行っていた大隊本部らしき将校団が橋ごと半数近くを吹き飛ばされている。
「してやられた!!大隊主力狙いか!!」
 渡河に成功した二個中隊も大隊本部と分断され、動きが止まる。
 そこへ敵からの射撃が行われ次々と倒れ、猛獣も混じった敵部隊による突撃を行われると、渡河した部隊は完全に潰走をはじめ、時を経ずして凍てついた川に銃弾以上の数の兵を殺されながら、対岸から〈帝国〉猟兵は完全に掃討されてしまった。
 これで二個大隊が戦闘能力を喪失した事になる。
 ――敵は恐ろしい程冷徹だ。
自分の戦力が痛手を受けない範囲の敵を渡河させ橋を爆破。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ