第1章 双子の兄妹
1-3 初めての感覚
初めての感覚
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「心配だから、あんた迎えに行って」
「お、俺が?」ケンジは右手の親指を立てて自分の鼻に突きつけた。
「あんたマユミの帰りのルート、知ってるんでしょ?」
「わ、わかったよ。しょうがないな」
ケンジはそう言いながら、少し心を熱くしていた。それを母親に悟られまいと、彼は着替えを浴室に放り込んで、そそくさと玄関に急いだ。
靴を履きながらケンジは母親に顔を向けた。「行ってくる」
「お願いねー」
母親は振り向きもせず、パン粉をまぶした豚肉を油の中に入れた。じゅうっと派手な音がケンジの背後で聞こえた。
ケンジは大会が行われた会場への道を自転車で辿った。顔が火照り、鼓動が少し速くなっていた。
二つ目の交差点を過ぎた頃、不安げな表情で自転車を押していたマユミを見つけて、ペダルを漕ぐ足に力を込めた。
「マユ!」
「あ、ケン兄」
マユミはひどく嬉しそうな顔をケンジに向けた。
彼女の背後の白い光を投げかけている街灯の下に蚊柱が立っていた。
「どうしたんだ?」
ケンジはマユミのそばで自転車を降りた。
「パンクしちゃったんだ……」
「パンク?」
「うん」
確かにマユミが押す自転車の前輪のタイヤは無残につぶれている。
「母さん、心配してたぞ」
「そう」
マユミは申し訳なさそうな顔をした。
「俺も……」ケンジは少し照れたようにそう言いかけ、続く言葉を呑み込んだ。
「え?」
「い、いや。何でもない」
ケンジはケータイを取り出し、素早くボタンを押した。
「母さんにメールした。帰ろうか、マユ」
「うん」
ケンジはマユミと自転車を交換し、それを押しながら横に並んで妹の足取りに合わせてゆっくりと歩いた。
「良かった、ケン兄、ありがとう。迎えに来てくれて」
「気にするな」
マユミは不安そうな顔をケンジに向けた。「夜は一人だと怖い」
ケンジは足を止めた。
「何かあったのか?」
マユミも立ち止まった。「変なヤンキーに声かけられた」
「ほんとか?」
「うん。コンビニの前で。でも無視して走って逃げた」
「そうか。今度から電話しろよ。いつでも迎えにきてやるから」
「ほんとに? 嬉しい、ケン兄」
マユミは本当に嬉しそうな顔をした。
「って言うか、今度はちゃんと忘れずにケータイ持って出かけるんだぞ」
「うん……」マユミは頭を掻いた。
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二人は再び並んで歩き始めた。
「もう、やんなっちゃう。明日、朝早いのに……」
「自転車屋、もう開いてないな、この時間」
「ついてない……」
うつむくマユミに、ケンジは努めて明るい声で言った。
「俺のその自転車使えよ」
「え?」
「帰ったら、サドル、おまえに合わせて低くしといてやるから、それで明
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