第百七十六話 手取川の合戦その十四
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「ここはです」
「何としても」
「それだけは」
「ふむ。では時が来ればな」
「今にもです」
「動かねばならないと思いますが」
こうも言うのだった。
「ですからそろそろ」
「我等も」
「まあ待て、焦るでない」
松永は余裕のある笑顔で己の家臣達に言った。
「だからわしは必ず動くわ」
「だからですか」
「ここは」
「そうじゃ。わしに任せてもらおう」
こう言うのだった。
「今はな」
「ではこのまま」
「今は」
「そうじゃ。安土に行きな」
そして、というのだ。
「殿の城を見ようぞ」
「どうも信貴山の城も真似たとか」
「そうした話も聞きますが」
「ほほう、それは楽しみじゃ」
松永は自身の居城が信長に影響を与えたと聞いて明るい顔になって述べた。
「余計に安土に行きたくなったわ」
「そして、ですか」
「その城を見て楽しまれますか」
「今はのう」
あくまで今は、と断った松永だった。
「そうしようぞ」
「左様ですか」
「そう言われますか」
家臣達は主の今の言葉に歯痒い顔にさえなった、しかし松永だけは飄々としてだ、その彼等に言うのだった。
「では行くぞ」
「では」
「今は」
彼等は松永の真意がわからなかった、松永もまたそれを見せることなくそのうえで今は安土に向かうのだった。
信長は安土に向かいながらだ、傍らにいる丹羽にこう言った。
「ではな、五郎左」
「はい」
「御主の普請した城見せてもらおう」
「是非共御覧あれ」
普段は控えめな丹羽も自信を見せて言う。
「殿の仰った通りにです」
「築いたのじゃな」
「特にあれは」
こう言うのだった。
「そうしました」
「ほう、あれはか」
「はい、とりわけ」
そうしたというのだ。
「ですから」
「期待してよいのじゃな」
「殿が満足されるかと」
「御主がそう言うのならな」
信長にとって丹羽は平手達四人の宿老達と同じく最も信頼する家臣だ、今やその四宿老の一人柴田、そして滝川、明智と並んで称される程だ。
それだけの股肱の臣だからだ、彼もこう言うのだ。
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