シンガーの辿り着く先
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同じことを考えたんだろう。
――もうあの頃には戻れない、と。
それはあいつが死んだからというのもあるだろうが、きっとあいつが生きていても同じだったんじゃないかと俺は推測する。
たぶんまた話も出来るし、互いを友達と思うことも出来る。
でも戻れない。
2人と別れたあの日に、俺達の人生と進む方向も決定的に別たれた。
上手く言葉に言い表せないが、あれが今までの楽しかった俺達との決別になってしまったんだと思う。
馬鹿騒ぎしていて楽しいと感じる俺達は、あの日に茅場晶彦によって砕かれてしまったのだ。
楽しくなくても行動する。それを知ってしまった俺達の会話が盛り上がることは、ひょっとしたら二度とないかもしれない。
別れ際に「バンド、どうする」と訊いてみた。
あいつは苦笑いして、「悪いがドラムは別の奴を見つけてくれ」と言った。
リハビリが終わって一人で出歩けるようになってから、いつも路上ライブをしている場所に足を運んでみたが、いるのは俺一人だった。
結局残ったのは、古びた安物ギターが一つと自分の命。
自然と、足元に置いたそれに視線が落ちた。
「マスター。ちょっとこいつ弾いていいか?」
ふと、気分でその質問をした。
あそこでは頼まれてギターを弾いていたが、昔はこうして店に頼んで演奏許可を貰っていたこともあった。
俺の質問にマスターは、さも可笑しそうにニヒルな笑みを浮かべる。
「・・・・・・お前、後ろ見てみろ」
「?」
振り向いた。すると、そこには――
「おい、まさか駄目なんて言わないよな?」
「わたし、久々に聞きたいです!」
「おう!現実世界に帰ってからの初ライブか?やれやれ!」
「店の許可なんて要らないぞ!俺達が許す!!」
「騒がしいのはどうかと思うけど・・・ま、いっか」
いつもここに屯している帰還者たちが、こちらに手を振っていた。
「これじゃ断れないぞ。あいつら、あんなのでも大事な客だからな」
「物好きだな・・・この歌自体はインターネットでDLすればもっと上手いのが聞けるってのに」
「馬鹿言え、皆お前の歌うのを待ってるんだ」
――あの世界にはあまりいい思い出が無いけど、こうして時間が経ってみれば、なるほどどうして悪くない。
アインクラッドでは感じなかった心臓の鼓動を感じながら、俺はギターを肩にかけた。
軽く弦を弾いて調子を確かめ、ペグを弄る。別段細かいこだわりがある訳でもないが、それが何となく嬉しかった。
ギターを鳴らす。
皆にとってはレベルアップの次に聞き慣れているらしいイントロを奏で、歌う。
押しつけがましいルールなんて逐一守っていられるか――
モラルもだ。勝手に押し付けるな。学校も塾も何もかも――
そんなお
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