シンガーの辿り着く先
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」
「こういうのも変な話だガ・・・お前の演奏は”本物”、ってことかナ」
意味深げにそれだけ言うと、「空きスロットがあったら演奏以外のスキルいれておくといいゾ」と言い残してどこかへ行ってしまった。
情報通だから忙しいのだろう、あいつは。
## それから10か月後 ##
珈琲の味なんて碌にわからないから、取り敢えずその香ばしい香りだけ楽しんで適当に口に含む。
ほのかに酸味を帯びた苦味が舌に広がった。
取り敢えずインスタントコーヒーよりは後味がいいようだ。
俺は今、「ダイシーカフェ」という喫茶店で趣味でもない珈琲を呷っている。
理由は、なんとなくだ。より深く分析すれば、感傷に浸っているとでも言うべきか。
この店はSAO事件の生還者の間では有名な店だ。
というのも、この店のマスターはアインクラッド内では商いをしていた有名人であり、そんな彼の店とあらばSAOプレイヤーの間で話題になるのは当然だ。
そう、SAOは終わった。
いつものように道端で歌っていた彼の声すらかき消すようなアナウンスによって、終わりはあっさり告げられた。
俺は――いや、その時点で生き残っていた全ての人間は呪縛から解放され、現実世界に戻された。
ログアウト寸前、「いいところだったのに!」と演奏の中断に怒るヒステリックな声が複数聞こえたのは笑ったが、帰ってきた俺の前に待っていた現実は甘くない。
まるで木の枝のように痩せ細った体は思うように動かず、世間はもう俺の生活していた時代より2年先になっていた。
大学は言うまでもなく席が消滅。ただ、事が事だけに大学の入学金の一部が親の元に帰っていたらしい。
無論そんなもの人間の命の前にははした金。それが証拠に、2年ぶりに顔を見た両親はすっかり老け込んでいた。苦労かけたな、って謝ろうとしたけど、声が掠れてうまく言えんかった。
ゲームの中ではあれだけ歌っていたのに、ままならない。
それから政府の手配でリハビリさせられ、大学の中退問題もこれから国がなんとかしてくれるらしい。詳しくは分からないが、そもそもリハビリで考えている余裕も無かった。
リハビリ中、一緒に入った2人の友達の1人と再会した。
そしてそこで、俺は知らなかった真実の一つを知らされた。
姿の見えぬもう1人は、ゲームが始まって2日目にはもう死んでいたらしい。油断して、パリンだ。
それで終わりだったそうだ。
戦えずに町に残っていたお前にはとうとう最後まで言い出せなかった、と友達は苦しそうに呻いた。それでも泣かないのは、最前線とはいかずともSAOで戦っていた戦士だからだろう。
それから別れていた空白を埋める話をぽつぽつと交わし、「あいつの墓参りに一緒に行こう」とだけ約束して別れた。
なんとなく、友達も俺と
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