第一章
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第一章
どちらか
ケムルはイスタンプールでも有数の金持ちである。
しかしだ。まだ若く結婚はしていなかった。それはこれからの話だった、
次第にだ。結婚を本気で考えるようになっていた。
それでだ。そのことをだ。召使いであるジャアファルに相談するのだった。彼が幼い頃から仕えてくれている非常に頼りになる男である。
その彼に問うた。いい相手がいるかどうか。するとだ。彼はこう答えたのだった。
「います」
「いるんだね」
「はい、ですが」
「ですがっていうと?」
「二つの道があります」
ジャアファルは道という言葉を出したのだった。
「二つの道があるのですが」
「道っていうと?」
「一人の方は。非常に美しく聡明でしかもお優しい方です」
「ふうん、完璧なんだ」
「その方と結婚されるのが一つの道です」
そうした意味での道だというのである。
「そしてもう一つの道はです」
「もう一人凄くいい人がいるのかな」
「いえ、一人ではありません」
ジャアファルはここでこう主に告げた。見事な宮殿を思わせる家のこれまた見事な部屋の中でだ。主に対して話したのである。
「何人もいます」
「何人もっていうと」
「ハーレムです」
つまりはだ。それだというのである。
「ハーレムを持たれるということもできますが」
「ハーレムねえ」
「多くの。数え切れない美女を囲われ」
そうしてそれからだと話すのである。
「彼女達と快楽の日々を過ごされるのですね」
「それがもう一つの道だね」
「そうした意味で二つの道があります」
ジャアファルは主にあらためて話した。
「旦那様はどちらにされますか」
「一人か大勢か」
「はい、どちらにされますか」
「両方は駄目だよね」
こうも尋ねる彼だった。
「それはないよね」
「どちらかです」
ジャアファルの言葉がぴしゃりとしたものになった。
「どちらかになりますが」
「困ったなあ」
ケムルはそう言われてだ。実際に困った顔になった。
そしてそのうえでだ。ジャアファルにこう言うのだった。
「わかったよ。それじゃあね」
「はい、それでは」
「こうするよ」
こうしてだ。彼の決断は。
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