第一話 暗黒の書の1ページ
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イオリンのコンサートで、眠る父親の横顔を眺めていた時もそう思っていた。
リンジーは、その時のメロディーを思い出すと自然に切ない感情が溢れてくる。
不安定で美しい響き。
何かに似ていた
「君は、お父様のこと好きだった?」
いきなり牧師が質問をしたが、リンジーは相変わらずうつむいたままで返事はしなかった。
「…言うまでもないか、好きに決まってるよね」
「君にとって悪いことも、良いことも全部、神様がもたらされる試練なんだよ、だからね……」
牧師の言葉は、やたらとリンジーを挑発した。
聞き入れまいとしても、そんな精神を持ち合わせていなかった。
「神様なんていないんでしょう」
講堂中がシン、と静まり返って、気がつけばリンジーはすごい剣幕で牧師を睨んでいた。牧師はリンジーをまじまじとみつめた。
リンジーはとっさに顔を反らした。
逃げ出したかったが、そんな衝動は起きなかった。
「君は、神様はいないと思うのかい?」
牧師は注意深く問った。言葉の響きが、さっきより冷淡で生々しいことにリンジーは気がつき、余計なことを言ってしまった、と後悔した。聖職者にそんなこと言ってなんになる。
「...そうだねぇ、君の言うとおりかもしれない。」リンジーは牧師を見た。
牧師の表情は、さっきまでの柔和な微笑みが消え、どこかリンジーと似た気だるい表情で、それは、不吉にもその男によく似合っていた。そしてリンジーは確信した。
この牧師は本当は神なんて信じていないということを。
紛争・戦争が盛んな十八世紀イギリスで、人々は神を頼り日々の不安を安らげていた。国民の大半が信者で、リンジーも3日前まではそうだった。
信仰の波に流されるまま都合の良いように神という幻想を利用していた。勿論それは彼女自身の不安もあったが、周りに神を信じない人がいなかったからでもある。
だが今、目の前に同類がいる。聖職者の、罪深き同類が。
リンジーはあっけにとられて牧師を見た。
すると牧師も聖書を放しゆっくりと、惜しげもなくリンジーを見つめた。牧師の目は何も求めていなかった。求めても無駄だからだ。リンジーは直感的にそれがわかった。
数秒間、二人は互いを視た。
青い瞳の奥の黒さを確かめるには、相手も見つめ返してきているので好都合だった。
「おまたせー!」
神聖な教会に
低俗な声が響いた。
リンジーの母親が戻ってきたのだ。
牧師は講堂の扉が動いた瞬間に目を反らし、口郭を引き締めすでに準備万端で母親を迎えた。
リンジーもそれに呼応するようにそっとうつむいた。
「ごめんなさい。この子、ホントに何も喋らないでしょう」
母親が牧師のほうに歩みより話をしだした。
「そういうことってありますよ。」
「
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