第一話 暗黒の書の1ページ
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ンタクロースを連想させる牧師の真っ白な長い髭が、小さな頃は好きだった覚えがある。
ブーゲ牧師は、この若い牧師とは正反対で口数が少なく、思春期の少女の肩に手を置くなんてことはしなかった。
堅物で愛情のあるブーゲ牧師をかつてのリンジーや父親は慕っていた。
でもリンジーは、もうブーゲ牧師とは二度と会わないだろうと思った。
すると若い牧師が、
「君もね、お父様のように毎日お祈りしていればいつか、報われる日が来るよ。」
と、独り言のように言った。
リンジーは、この牧師とブーゲ牧師の決定的な違いを見いだした。
この若い牧師は、宗教に対して半信半疑で向き合っているのかもしれない。だからどんな言葉も薄っぺらく、中に浮くようなぼやけた印象しか残さないのだろう。
もちろんリンジーの今の精神状態も影響しているのだろうが、ブーゲ牧師だったら、リンジーをもう少し前向きにさせるような言葉を投げ掛けてくれただろう。
とはいえリンジーはもう二度と神様は信じないと思った。
あの本にも書いてあった。
熱心な信者だった父は救われなかった。
リンジーは、あることに思い当たって無意識に顔を上げた。
ほぼ同時に若い牧師が立ち上がったが、リンジーの動きを察したのか静止して彼女の様子をじっと見た。
リンジーはお構い無しに考えを巡らせた。
どうして父は、熱心な信者だったのにあんな本を部屋に置いておいたのだろうか?
あの無神論の本は、正真正銘父の部屋から見つけたものだ。
そもそも父はあの本の存在を知ってしてたのか?
「……」
講堂に沈黙が広がった。どす黒い液体が透明な水を染めていくような、神聖とはほど遠い沈黙のようにリンジーは思えた
牧師と目があった。
光を失った冷たそうな目だった。リンジーは、一瞬牧師の目が明らかに自分を責めていたのを見逃さなかった
牧師はとっさに背中を向けて歩きだし、大きな十字架の前の演台に立った。
そして、分厚い聖書を取り出し
なんページかを探し始めた。
リンジーはしばらくそれを眺めていた。
あの牧師とは初対面で、責めるような目で見られる覚えもない。さすがに少し戸惑う。
リンジーはさっきの、牧師の目を思いだし、もう一度牧師を見た。
牧師は、やはりどちらかと言うと冷涼なめつきをしていた。
口もとは、柔和な微笑みを浮かべている。
さっきのあの目は、牧師のもともとのめつきなのかもしれない。
そう思い、リンジーは牧師から目を反らして
再びうつむいた。
そしてまた沈黙が訪れたが、この沈黙はさっきよりはいくらか居心地がよくてリンジーの精神状態に合っていた。
ステンドガラスが妖艶に光った。
このまま時が止まればいいな、とリンジーは思った。
一年前ヴァ
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