第二章
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第二章
「この世を儚んでではないのか」
「学校の宿題で使うんで」
「それか」
「それです。哲学の授業で」
「ふむ。そういえばだ」
ここで彼女は嶺浩を見た。そしてだ。
あらためて話すのだった。
「君は大学生の年齢だな」
「はい、大学生です」
そのまま答える彼だった。
「それで講義で」
「わかった。それならだ」
ここで彼女はだ。左手の本棚から一冊の本を出してきた。それは確かにショーペンハウアーの本だった。著者がそう書かれていた。
「この本がいいな」
「それですか」
「レポートを書くのだな」
「はい、そうです」
「ではこの本で充分だ」
また話す彼女だった。
「読むといい」
「わかりました。それじゃあ」
「学ぶといい」
彼女の言葉はここではこんなものになっていた。
「学べばそれだけ己のものになる」
「だからですか」
「そうだ、学ぶのだ」
こうしてその本を借りてレポートを書いた。そのレポートは見事優の評価を得た。しかし図書館に行くことになったのはこれが最後ではなかった。
まただった。今度もだった。
「何だかんだでレポート書かせる人だな」
同じ講義でだ。レポートを要求されたのである。
今度は誰かというとだ。彼は自分で呟いた。
「サルトル?猿の親戚か?」
こんなことを呟くのだった。
「それか?」
「いや、それは違う」
後ろからだ。彼女の声がしたのだった。
「サルトルは確かに猿に似た顔だったが猿ではない」
「その声は」
「久しいな、青年」
振り向くとそこにいたのはその彼女だった。今度は前と同じベストにネクタイにブラウスだった。だが今日はズボンだった。その服でそこにいたのである。
「またレポートか」
「はい、そうです」
「そしてそれを書く為にここに来た」
「その通りです」
「ふむ。それではだ」
今度はすぐだった。その本を出してきたのだった。
「これがいいな」
「その本がですか」
「借りるといい」
「それでレポートを書けるんですね」
「大学のレポートにはこれが一番いい」
その本がだというのだ。
「だからだ。ほら」
「すいません」6
嶺浩は彼女からその本を受け取ってから礼を述べた。そうしてその本を自分の手の中に入れてだ。それからまた言うのであった。
「けれどお姉さんって」
「合格だな」
「合格って?」
「お姉さんと言ったことがだ」
クールなその顔に微笑みを浮かべての言葉だった。
「それが正解だ」
「ああ、これですね」
「若しおばさんと言えばだ」
「駄目だったんですか」
「私は二十四だ」
その年齢を自分から言った。
「まだな。二十四だ」
「そうなんですか」
「君は見たところ二十歳だな」
「はい」
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