シンガーはただ歌うだけ
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だろ?」
「まぁ嫌じゃないさ、心温まる人情劇だってないわけじゃない。でも・・・この世界にいると他人の演奏が見れないからあんまギターの腕が上達しねえんだよ。何で茅場はこのゲームにギタリスト連れてこなかったんだよ・・・ったく」
「プッ、そいつは確かに深刻な問題だ」
「それにこの世界じゃ便所に行けねぇし体臭もほとんどしねえ。走っても走っても心臓が鳴らないこの世界じゃ、歌ってもイマイチ高ぶらないっつうか・・・」
「フーン・・・・・・俺には分からんな。言いたいことは何となくわかるけどな」
本音を言えばもう一つ。
ここでは馬鹿騒ぎして楽しむあいつらと一緒にいられない。
馬鹿騒ぎして、箸が転げても面白かったあの連中とつるむことが出来ないのが、寂しかった。
ふと、あいつらは今元気にしてるんだろうかとフレンドリストを見てみる。二人とも名前が灰色に変色していた。迷宮区に入っているとこうなるのだが、死んだときもこうなるらしい。
「・・・どうした?」
「いや・・・」
もしも現実世界に戻っても、あの頃みたいに楽しく笑い合えないだろう。
なんとなく、そう思った。
2人が行った先が迷宮区であれあの世であれ、もう俺がついて行ける場所ではないのだ。
別たれてしまった道だった。
死んでいるかもしれないことを不安には思わなかった。
むしろ、現実に帰って再会した時に、「大変だったな」と笑いかける俺に、あいつらがどんな顔をするのかの方が考えたくなかった。
「お前は何もしてなくて、暢気に歌ってただけだろう」と軽蔑するのか。
俺を置いて先に行ってしまったことに背徳感を感じて、顔を顰めるか。
それともひょっとしたら、すでに2人は俺の事を忘れているのかもしれない。
初日以降、2人からはメッセージが来ていない。
彼らの生きる濃密な世界の中で、俺は明らかに優先順位の低い存在だろう。
俺は彼らの中で希薄になってしまった。離れてしまうと、人心も簡単に離れる。
もう、あの瞬間は戻らない。
「・・・一曲聞いて行けよ。曲はあれでいいか?」
「ああ、やってくれ」
最初の頃より少しは上達した声が、町の通路に響く。
いい曲だ、と常連の男は呟いた。
俺もそう思う、と呟き返した。
暫くして客とも通りすがりとも知れない誰かがやってきた。
何度か見たことがある、黒い服の少年だ。
常連の男を見るなり、その表情には憤怒や恐怖、悔恨など様々な感情の入り混じったどす黒い声で呟く。
「お前・・・ここで何やって――」
「shut up・・・曲が台無しだぜ、今だけは黙ってな」
「そいつに手を出す気か?今までそうしてきたように・・・!!」
「なんだ、ここで始めたいのか?黒の――」
「・・・・・・お前ら、黙ってそこに座れ」
歌の
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