シンガーはただ歌うだけ
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に工面してもらっている状態だ。
俺を置いて先へと進んだあいつらは、今頃どこにいるんだろうか。
安否を気遣うメッセージは送ることが出来るが、なんとなく気分になれずに一度も送ってはいない。
別に置いて行かれたことを恨んではいない。むしろ、俺を連れていかれたら間違いなく負担になったろう。俺自身、情けない自分に耐えられる自信はなかった。
一応町を出る前に一報くれたし、俺もそれでいいと伝えた。
未だにレベルは他人に手伝ってもらってようやく20に届いた程度だ。
今いる層の安全マージンが確か35くらいで、今の最前線ではもう60くらいだっただろうか?詳しくは覚えていない。
レベリングなんてしんどくてきついのだが、よりよい楽器を抱えるのにSTR(筋力)の値が足りなくなるのだ。
数層に一つ二つ、弦楽器は置いてある。ほかに楽器演奏する人間が少ないから、多くが俺の所に回ってくるのだ。
余談だが、弦楽器以外の楽器も多く存在するが、俺のように路上で演奏している奴は殆どいないそうだ。理由を聞くと、俺に勝てないからと口をそろえて言う。
・・・音楽ってそういうものじゃないと思うのだが。
丁度歌を歌い終えたタイミングを計るように、声。
「Hey、また歌ってんのか」
「ああ、あんたか」
男はその声を聴いて、知ってるプレイヤーだという事にすぐ気付いた。
妙に発音のいいイントネーションの喋り方と声。そして顔を上げれば隠密スキル補正の高そうな古びたマントの男。
名前も知らないが、第1層から時々歌を聞きにくるため常連と言えるプレイヤーだ。
「いい歌だな。でも聞いたことがねぇ。オリジナルか?」
「まさか。20年くらい前のロックバンドの名曲さ。作曲もちょっとは齧ってるが、これには一生かかっても勝てない」
遊び半分でバンドやってるような俺が本気で尊敬してるバンドだ。アインクラッドに閉じ込められて最初に思い浮かんだ応援歌がこれだった。常連は「ふゥん」と相槌を打つ。
「まぁそうだろうな。音楽に興味ないオレも、こいつの良さは分かる。ほかの曲のレパートリーないのか?」
「あるにはある。でも新規で聞きにくるような奴はこの曲目当てだし、俺もこの曲を聞いてると元気が出る。最初はこれで決まってるし、アンコールがあればずっとこれだ」
「Wow、まるでトップアーティストだぜ」
「そいつは皮肉かい?」
「まさか。ツイてるって話さ」
この電脳空間、いや、仮想世界というのだったか。それに意識が閉じ込められなければ、俺の歌なんて一人たりとも評価しなかったろう。
もし歌が気に入ったとしても、ネットで音楽ファイルを拾って本物が歌ったほうを聞けばそれで済む。
俺という存在が注目されて人から慕われるのは、この世界だけだ。
「嬉しくないのか?人気者
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