シンガーはただ歌うだけ
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いたのかと驚くほどに。
「こんな訳の分からない世界で、訳の分からないルールを押し付けられて!そのまま世界になされるがままなんて嫌!!」
行動だ。
行動だけは、自分が自分として行動した記憶だけは、たとえすべてがデジタルに支配されたこの世界でも変えられない。
私の魂は私のものだ。
私の命はこんなゲームで失われるんじゃない、最後の最後まで抵抗し尽くして、戦いつくして、私がこれ以上戦えないと思うほどまでに全力で生き抜いたときに失われるんだ。
茅場晶彦にも、SAOと言うゲームが用意した死も受け入れない。
私はそんなものに負けて死ぬんじゃない。
私が最後まで抵抗しつくしたことが、私の勝利なのだ。
気が付けば、彼女は明確な死の危険が待つフィールドへ走り出していた。
ありったけの通貨でポーションと武器を買い込んで。「負けたくない」というそれだけの意志を決定的なまでにその心に刻んで。
そんな彼女が走り去るのを、青年は寂しそうに見送った。
「俺の歌で立ち直ってくれた・・・って考えることは出来る。でも――戦わなくてよかった人を送り出しちまった、ともいえるかな」
男の歌を聞いたプレイヤーの何人かが、本人なりに心に区切りを付けてデスゲームの重圧から立ち上がった。だが、それは正しい事なのか?
最初からなかった希望を引き伸ばしにしただけで、彼らは結局このゲームに押し潰されるかもしれないじゃないか。あるいは、歌った俺のせいで彼らが死地に追いやられたかもしれないじゃないか。そう思うと、素直に喜ぶことは出来ない。
「・・・でも、未来はある。そう思ってなきゃ人はやってられないんだよな。未来を掴むのは俺たちの手だ」
男は演奏を続ける。経験値にも金にもならない演奏を、ただ続ける。
何もできない男が唯一出来るのは、それだけだから。
= =
もう時間帯は深夜になってきた。
この町は夜の街に幽霊が徘徊するとかいう噂のせいで、時間帯によるNPCの人数差が極端だ。ここは宿が近く比較的街灯が多いが、ひとたび離れればゴーストタウンのようになる。
ちなみに、その幽霊の正体の殆どがホラーなクエストの類なのだが。
そんな陰気くさい場所に何故俺がいるのかというと、俺の歌を聞くのに1層まで下りるのがしんどいと相談されて渋々上の層に足を運ぶようになったからだ。最近は戦いの才能が壊滅的だったため生産職に手を出しているが、そっちの方の成果は芳しくない。
だから俺は相変わらず歌ってる。
そんな俺を役立たずだと吐き捨てる連中もいれば、フィールドやダンジョンから帰ってくると必ず聞きにくるような物好きな奴もいる。そんな物好き共のために、おれはこうして歌っている訳だ。情けないことに、楽器代や生活費は他人
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