第百七十六話 手取川の合戦その十
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「先日の六波羅からの」
「勘十郎からの文じゃな」
「あれのことは」
「うむ、公方様にも困ったものじゃ」
信長は難しい顔をして小西に答えた。
「どうもな」
「では」
「そうじゃ、また色々と騒いでおられるらしい」
「左様ですか、どうにも」
「わしのことを色々言っておるらしい」
信行は義昭の動きを信長に伝えていた、己の責務を果たしているのだ。そして信長はその文を見てそして言うのだ。
「どうもな」
「それでは幕府のことは」
「どうしたものか」
ここでだ、信長は家臣達に問うた。
「公方様は」
「難しいですな」
ここで言ってきたのは丹羽だった。
「正直なところ」
「どうすべきか、か」
「最早幕府に力はありませぬ」
「都の一隅にあるだけじゃな」
「兵も禄も銭もありませぬ」
最早何の力もないのだ、幕府にも義昭にも。義昭がどう思っていても。
「幕臣にしましても」
「最早な」
「はい」
こう信長に話すのだった。
「最早」
「織田家の禄で生きておる」
「青い服を着ていない幕臣といえば」
「もう二人だけか」
「あの二人だけかと」
天海と崇伝、彼等だけだというのだ。
「既に」
「それではな」
「公方様が出来ることといえば」
「文だけじゃな」
「はい、あれを他の大名に送られるしか」
「勘十郎が言うにはその文をな」
信長は考える顔で丹羽に述べた。
「あちこちに送っておるとのことじゃ」
「その様ですな」
「竹千代にもな」
家康にも、というのだ。
「送っておるそうじゃ」
「徳川殿にもでしたか」
「御主達にもじゃな」
信長は己の家臣達にも問うた。
「そうじゃな、前からその都度わしに出してくれておるが」
「ひっきりなしです」
「とかく何かと送ってこられます」
「武門の棟梁に従えと」
「そう書いた文を」
その通りだとだ、家臣達は信長に口々に言ってきた。
「殿にお送りした通りです」
「殿ではなく公方様に従えと」
「そう書かれた文をです」
「やたら送ってこられます」
「何かと」
「わしを裏切れというのか」
信長は考える顔で述べた。
「全く。その様な者なら最初からじゃ」
「殿はですな」
「用いられませぬな」
「使えぬ者、背く者は最初から使わぬわ」
これが信長だ、彼はその者がどういった者は一目で見抜く目を持っている。だからこう言えるのである。
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