第百七十六話 手取川の合戦その九
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「だからじゃ」
「その法を確かにし」
「天下に知らしめしますか」
「うむ、武家だけではなくな」
「そのことですが」
ここで言ってきたのは林だった。朝廷、公卿達との調停役の彼がだ。
「公卿の方々も天下泰平は望んでおられまして」
「あの方々もそれ自体はじゃな」
「然程抵抗はない様ですが」
「それでもか」
「ただ。お一人だけ」
林は顔を曇らせて出す名はというと。
「高田様だけは」
「高田卿とな」
「はい、あの方だけは」
「高田卿か」
その名を聞いてだ、急にだった。信長は顔を曇らせてそのうえで林に対してこう言った。林も真剣な顔で応える。
「あの御仁は」
「はい、どうにも」
「謎が多いのう」
「高田家自体が」
「その出自がはっきりせぬな」
「藤家の方ではありませぬ」
藤原氏のことだ、この場合は五摂家である北家の系統だけでなく南家や式家、京家も入れてのことである。
「それに橘氏でもありませぬし」
「かといって大伴氏でもないな」
「どの家でもなく」
「出自がわからぬな」
「しかし古くよりある家でして」
「飛鳥の頃からあった家じゃったな」
「左様です」
林はこう信長に答えた。
「高田家は」
「ぞうじゃな。陰陽の家でもあったな」
「そうです、しかしどうにも」
「何をしておられるのかもな」
「わかりませぬ」
その高田家のことはというのだ。
「どうにも」
「その通りじゃな。それでその高田卿がか」
「はい、我等の政つまりこの法に反対とか」
「左様か」
「公卿はまた別だと」
「いや、天下万民の為の法じゃ」
信長はこれは強く言った。
「わしの法は天下のあらゆる者を守るもの、だから公卿の方々にもと思っておるのじゃが」
「しかし高田様はそれを」
「理解しておられぬか」
「どうやら」
「高田卿は愚かな方ではないな」
「いえ、それは全くありませぬ」
林はそのことは否定した、それもすぐに。
「あの方は」
「違うな」
「はい、むしろです」
「かなり聡明な方と聞いておる」
「左様です、それは」
そうだというのだ。
「あれ程聡明な方は朝廷にはおられぬかと」
「そうじゃな。わしもそう聞いておる」
「しかしです」
「どうもじゃな」
「得体の知れぬ方です」
林は眉を曇らせて信長に話した。
「あの方が何をしておられるかも」
「どうもじゃな」
「一切わかりませぬ。注意は必要かと」
「そうなるな」
「そしてなのですが」
今度は小西が言ってきた、彼が言うことはというと。
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