第百七十六話 手取川の合戦その七
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「そうします」
「左様ですか、では」
「これで攻めは」
「終わりです」
謙信ははっきりと言った、夜の闇が近付く中で。
「そうします」
「わかりました、では」
「ここは」
「後詰は私が務めます」
謙信自らが、というのだ。
「相手は織田信長、油断は出来ません」
「甲斐の虎の様にですか」
「そうされますか」
「相手は強いです」
「それ故に」
「そうされますか」
「そうです」
だからこそ、というのだ。
「私が後詰になります」
「そうですか、では」
「夜のうちに」
「はい、越後への帰路につきましょう」
こう言ってだ、そのうえで。
謙信は戦いを止めてだった、夜の闇が世を覆うと。
戦の場を後にした、その夜にだった。
警戒をしながらも戦を止め晩飯を食べていた信長のところに報が来た、その謙信が陣を払い越後に帰ろうとしていることを。
その報を聞いてだ、すぐに周りの家臣達が問うてきた。
「殿、ここはどうされますか」」
「上杉の軍勢が退きますが」
「ここは攻められますか」
「そうされますか」
「いや、待て」
信長ははやる感じの彼等をこう言って止めた。
「我等はこの戦で疲れておる」
「だからですか」
「ここは」
「うむ、疲れておるからじゃ」
だからだというのだ。
「まずは休む必要がある、それにじゃ」
「それに、ですか」
「さらにありますか」
「そうじゃ、後詰におるのはな」
「まさかと思いますが」
「その後詰の将は」
それが誰かだ、彼等もすぐに察した。上杉の軍勢と今しがたまで戦っていたが故に・
「上杉謙信」
「総大将自らですか」
「あの御仁が後詰ではどうにもならん」
全く、というのだ。
「だからじゃ」
「ここは下手に責めるべきではない」
「そのこともあってですか」
「しかも我等は加賀の国の北にはまだ疎い」
完全に領国にはしていない、だからだというのだ。
「だからな。夜に追うとはぐれる者もおるしまともな追撃も出来ぬわ」
「そのことからもですか」
「今は」
「うむ、追うでない」
そうせよというのだ。
「それよりも今は加賀の北を完全に抑えてじゃ」
「これからに備える」
「そうすべきですか」
「相手は越後の龍じゃ、迂闊に攻められぬ」
信玄と同じくだ、それは無理だというのだ。
「だからよいな」
「はい、それでは」
「今は」
「飯を食いじゃ」
そして、というのだ。
「休み朝からじゃ」
「加賀の北を抑える」
「そうしますか」
「金沢の辺りにも行く」
加賀の北のそこにも、というのだ。
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