消失−わかれ
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彼の若き日の姿が走りすぎていった。おそらく真壁朱音だった頃の記憶だろう。同時に、腕の中に抱き抱えている赤ん坊と、細かな文字で記された書類の束がよぎった。これこそが真壁朱音だった者が一夏に託した代物なのだろう。
それからあとは様々なことをした。
精密検査のために身体のあちこちを触られたり、
いっぱい多すぎて最初の方が覚えていられないくらい質問をされて、
最後にはまた最初の医務室に戻っていた。中にいるのは、史彦と千鶴だけだ。この島、“竜宮島“の中枢となっているアルヴィス総指令をしている公蔵は早々に一夏と別れていた。
「━━つまり君は、こことは別の世界からフェストゥムとなった朱音に導かれてここにやってきた……と言いたいのか?」
史彦が確認を取るようにもう一度一夏に尋ねた。それだけ念入りにしなくてはならない事態が起きているのだ。
「はい。俺の中にあった、例のデータも多分真壁朱音さんだった者からの贈り物だと思うんです」
お互いが質問と調べあいを終了した結果。どうやら一夏は史彦の奥さんであったフェストゥムによって時空を跳躍して異世界にやってきたらしい。今思い返せば、真壁朱音だった者は『遠い時空から』と言っていた。
つまり一夏にはもうあの世界に帰る手段が残されていないということになる。
「真壁さん。この子が言っていることは恐らく本当のことです。なにせ彼の記憶の中には朱音さんの研究資料だけでなく、一騎君が赤ん坊だった頃のものまで含まれているのですから」
史彦はそれでもしばらく黙って決断を決めかねていた。当然だろう。この決断一つで竜宮島は死を招く可能性だって大いにあるのだ。しかし朱音の研究資料が彼の中にあることが、彼を島から追い出すという選択を潰そうとしていた。一夏の記憶から写し取った真壁朱音の研究資料には、今大人たちを悩ませている同化現象を遅らせる方法やフェストゥムについての情報が断片的にではあるが残さてれいるのだ。
場合によっては近いうちに行われる“L計画“に大きく貢献するはずだ。
「……皆城ならどうすると思う?」
総指令の仕事に追われながらも会話を聞いていた公蔵に話しかける史彦。
この件は、総指令の判断抜きで決められないことだというのがよくわかる。
『……検査の結果を聞いた限り、彼は彼女と同じコア型らしいな。彼の力が、島にとってプラスになるものはデメリットを考えても、十分なお釣りが来ると私は考えるね』
つまり、遠回しにメリットを取るべきだと公蔵は主張したのだ。島の総指令がそう決めた以上、よほどの反論ができない限りこれを覆すことはできないだろう。もっとも史彦自身、彼を島から追い出す気など毛頭なかった。
公蔵との通信を切った史彦は、ベッドの上で安静にしていた一夏に近寄った。
「……我々は話
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