第六章
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第六章
明らかに敵の方に向いていた。彼等の方がだ。勢い付いていた。
その中での励ましなぞ何にもならない。明らかにだ。彼等は敗れようとしていた。
徹もだ。それはわかっていた。それで何とか言葉を出すのだった。
「とにかくだ。今はな」
「ああ、投げろ」
「後は俺達が何とかする」
「絶対に取るからな」
打たれることが前提になっていた。彼も流石に気持ちが折れようとしていた。ピッチャーが打たれることを前提にしていてはだ。
そんな状況だった。敗色は濃厚だった。彼等の高校のベンチも応援席も沈黙している。重々しい空気になってしまっていた。
だがそれはだ。突如として終わったのだった。
観客席からだ。声が聞こえてきた。
「徹君、頑張ってね!」
「!?この声は」
「まさか」
「あの声は」
誰もがその声に反応を見せた。するとだ。
そこにいた。理恵がだ。何とそこに理恵がいたのだ。
「理恵ちゃん、大丈夫か?」
「風邪ひいてたんじゃないのか」
「回復したのか?」
「まさか」
誰もが風邪で倒れていた彼女が今ここにいることに驚きを隠せなかった。しかしだ。
その声を聞いてだ。徹が変わった。
彼女の姿も見てだ。その表情を見る見るうちに変えた。
明るくなった。そして奮い立ったものになった。それでだった。
理恵に顔を向けてだ。こう叫んだ。
「ああ、俺はやるからな!」
「投げてね、全力で!」
「投げるよ、そして」
「甲子園、行ってね!」
「やってやるからな!」
こうしてだった。彼のメンタルは一気によくなった。コンディションもだ。
そのうえでだ。試合に向かう。最早彼には敵はなかった。
瞬く間に一人三振に取った。そしてだ。
最後の一人もだ。見事にだ。
このバッターも三振に取ってしまった。これで決まりだった。
試合に勝った。甲子園に行くことを決めた。その左腕でだ。
彼は理恵の登場によりそれをもぎ取った。そうしてからだ。
試合終了後すぐに理恵のところに駆けてだ。観客席にいる彼女にこう告げた。
「俺やったよ!」
「うん、おめでとう!」
「理恵ちゃんがいれくれたから」
それでだというのだ。
「やれたよ、こうしてね!」
そのことをだ。彼女に伝えたのだった。二人の交際はこれを期にさらに深いものになった。
そしてだ。その話の後でだ。周りは話すのだった。
「しかし。あの日よくな」
「ああ、試合に来られたよな」
「かなり酷い風邪だったのにな」
「よく回復できたな」
「本当にな」
「気合入れて回復させたのよ」
理恵に電話したその友人の言葉だ。
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