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【短編】竜門珠希は『普通』になれない【完結】
肉のない青椒肉絲はいかが?
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そ、その手に持っているものなんだけど……」

 彩姫が恐る恐る指差した先、珠希の手にあるのは珠希自身の背丈ほどの長さがあるSMプレイ用の一本鞭。つい先程、火花が散るような音を上げて母親の仕事部屋、畳の上に敷かれた長毛の絨毯を抉り取らんとした物体であった。

「これですか? これは確かあなたが執筆に必要な資料だといって通販で購入されたものですよ? お忘れでしたか?」
「そ、それくらいはお母さんだって覚えてるわよぉ」
「それはよかった。なぜかあたしが代引きしたものですから、ねえ?」
「せ、せんせえーぃ?」

 この家の家事すべてを掌握している以上、珠希が家にいることは多く、それゆえに宅配便などを受け取る確率も一家の中では相当高いのだが――娘に通販で頼んだ鞭を受け取らせる母親には担当編集すらドン引きのようだった。
 ええそりゃあもちろん品名に「鞭」なんて書いて送ってくる馬鹿はいませんよ。
 ただし、家事全般を預かる珠希が身に覚えのない宅配物を受け取ったところで、その中身が何なのか領収書や履歴を確認することくらい造作もないわけで――。

「――って、珠希ちゃん。もしかしてお母さんのパソコンを……ッ?」
「んなメンドくさいことしないっての。単に通販とかの領収書もあたしが管理するから出せって言ったとおりお母さんが出してくれてただけよ。後で汐里さんに必要経費として落とせるか聞くためにもね」

 竜門家の家事を掌握して早(ピー)年、もはや珠希の収支管理に抜かりはなかった。

「――で、汐里さん。これは経費で落とせますか?」
「え? あー、うん。ちょっと、というかかなり無理ですね」
「了承しました。この代金はお母さんのお小遣いから引いておきます」
「そんなぁっ!!」

 味方だと思っていた担当編集にあっさり裏切られ、家事をまとめあげる娘からお小遣いまで減らされ、ショックを受ける母・彩姫のその職業名は作家。小説家。皮肉られて「誰でもなれる職業」とも言われている。
 しかしながら彩姫の描くジャンルはR-18。
 X指定ともいうが、理由は性交がメインであるがゆえ。
 つまるところ、官能小説家である。

「さて、お話を本筋に戻しまして――お二人とも、ここであたしの気が済むまで鞭に打たれるか、この場でいかがわしい行為を切り上げるか、どちらか選んでくださいますか?」

 そして、もうこれ以上は妥協も遠慮もしないぞという雰囲気を全身から醸し出しながら、珠希は怒気を孕んだ笑顔でアラフィフのダメ母と押しに弱い担当編集に尋ねた。

「た、珠希ちゃん。お母さんはどっちも――」
「嫌だ、ってのはナシですよ? お二人とも」
「ですよねえ……」

 笑顔で背後に修羅を降臨させる呪文を唱え始めた珠希を前に、二人とも後者を選んだのは
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