肉のない青椒肉絲はいかが?
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ってしまった友達が珠希にはいたのだから。
「――で、お二人は反省の弁などございますか?」
母親が普段仕事をしている際に使っている椅子にどっかりと腰を下ろし、日焼けやシミ、ムダ毛とは縁の無い腕と脚を組み、『普通』になりたい負け犬小心者女子高生珠希は眼前で正座をさせられているいい年齢した女性二人を睨みつけた。
小心者の気がある負け犬でも怒って牙を剥けば恐いんだ。この世には怒らせてはいけない人間がいること、みんなは社会に出る前に覚えておこう。
「あ、あのね珠希ちゃん。これは――」
「言い訳なら後でゆ〜っくりお聞かせ願えますか? お母様」
「ひッ……」
何やら言いだそうとした襦袢姿の女性の言葉を、珠希は――背後に修羅を降臨させて――満面の笑みを浮かべて容赦なく却下。黒縁眼鏡のスーツの女性が小さく息を飲んだのも珠希の地獄耳は聞き逃さなかった。
それにしても何にしても――この状況下で珠希が頭を抱える最大の原因は大きく二つ。
「そ、そんな……ッ。冗談でしょ珠希ちゃん? お母様だなんてそんな他人行儀な」
「いえいえ。こちらは今一秒でも早く他人になりたい気分なのですが――まだ言い訳するなら今日の晩ご飯は肉抜きの青椒肉絲にすんぞコノヤロウ」
「そ、それってただのピーマンの油炒めじゃあ……」
そのひとつが、この先程までの妖艶な雰囲気はどこへやら、竜門家の家事の実権を一人で掌握する珠希の下した残酷な一言に涙目になる襦袢姿の女性・竜門彩姫こそ、珠希をその腹から産んだ唯一の女性であることだった。
とはいえ、これが血のつながった実の母親だと思うと、むしろ泣きたいのは珠希のほうである。
あと悪いが黒縁眼鏡の女性、ツッコミは結構だが青椒肉絲はピーマンと肉だけで作る料理じゃない。オーソドックスな他の材料を挙げてもタケノコやネギがある。こちとら何が悲しくて中3の頃、高校受験シーズン真っ只中に仲のいい魚屋のおっちゃんからアンコウの捌き方を教えてもらわなきゃいけなかったんだ? その日の夜がアンコウ鍋になったのは言うまでもないが。
「ピ、ピーマン? そ、それだけはイヤっ。お母さんを殺す気なの珠希ちゃんッ?」
「食べたくないなら自分でお作りになられてはいかがです?」
「酷いッ! わたしがお菓子以外作れないって知ってるくせに」
普段はだらけまくっているくせに、いざ集中力が高まると周囲の心配をも無視して寝食を忘れるほど仕事に没頭する母・彩姫の味覚や好きな料理は本当におこちゃまである。単に放っておけばケーキやらクレープやらの甘いモノを際限なく摂取するだけでなく、ハンバーグやらミートソーススパゲティがテーブルに並ぼうものなら、その匂いを嗅
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