第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
第四節 離脱 第五話 (通算第60話)
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に扮したクワトロが戦場で駆るMSもサーモンピンクと臙脂の《ガルバルディ》であり、赤ではない。付け加えるならばシャアの《リックディアス》は臙脂というより茶色がかっており、正確にはシャアのパーソナルカラーとは違うこともメズーンの目を惑わすのに一役買うだろう。
「見たことがあるんですか?」
「ジオンのニュースはサイド7じゃあまり流れない? グラナダでは、ジオンは外国といっても一番近いサイドだから、結構ニュースで流れるのよ」
レコアは少しだけ饒舌だった。
自分の素性がバレることを嫌っての無意識なのかもしれない。彼女がジオンの外人部隊に在籍していた過去を知る者はエゥーゴにいない。ジオン公国軍時代の仲間は〈デラーズの乱〉で戦死したか、アクシズへと落ち延びているし、グラナダの司令本部にあった軍籍リストは撤兵のドサクサに紛れてシーマの指示で消失させられている。本国では国籍取得者以外の軍籍リストは保管しておらず、レコアは帰国早々、不法滞在者扱いで家族共々難民申請をさせられた。
本国が使い捨ての道具としてしか見ていなかったこととシーマの機転によってレコアはジオンという過去を新しい人生に書き加えられることはなかった。
「サイド7以外は知らないんですよ」
「そうよね。私もサイド2とグラナダぐらいだし」
この時代、他のサイドへ行き来するのは旅行ができる程の裕福な者たちか、地球圏規模でビジネスを展開する企業のエリートか、軍人か、コロニー公社の上級役人だけである。士官学校の合格者は入学手続きを取れば軍籍を得るため、メズーンは軍の手配したシャトルでフォン・ブラウンへ向かった。サイド7の外に出たのはその時だけである。
「見えたわ」
二人の眼前に白亜の艦体が近づく。
二○メートルの巨人でも《アーガマ》の前では小さく見えた。全長二六○メートル、全幅一三四メートル。両舷の張り出したカタパルトデッキが、ペガサス級の意匠を継いでいるような印象を与えていた。
「……《ホワイトベース》……」
管制室から『着艦よし』のサインがでた。相対速度は0。感覚的には静止状態である。スラスターを小刻みに使ってゆっくりとデッキに降りる。レコア機が左肘を失いながらも危なげなく着艦するとすぐさまデッキクルーらが取りついた。レコアらしきパイロットが機体胸部から出てセンターデッキへ流れたのが見える。
レコア機が奥へと運ばれるのを横目に、メズーンは必死で着艦操作をしていた。コロニーに戻るときと同じ操作でも広さが違う。コロニーと軍艦では射的の的全体と的中ほど違うのだ。
数分後、ようやく機体を着艦させるとメカニックがコクピットを開けろと指示してきた。
「俺はノーマルスーツを着ていないんだ!」
メズーンはハッチを強制ロックして叫ぶしかなかった。
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