第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
第四節 離脱 第四話 (通算第59話)
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カミーユはランバンと対角をなし、レコア機を中心にしてV字編隊を維持していた。端からみれば、ジオン共和国と連邦の混成部隊というよりも、ジオン残党が滷獲したジムを使っていると誤解しそうな光景である。一般的にグラナダ所属機のボディーカラーが緑であることは認知されていない上に、ジオン軍のシンボルカラーが緑――本来はカーキに近いクリームグリーン――であることの方が知れ渡っているからだ。機体の統一性もカラーリングの統一感もない部隊構成は、一見雑然とした雰囲気を持ちながら、歴とした小隊であることが判る。
カミーユから見てもレコアは『心此処に在らず』であり、鈍いランバンでも察しのつく様子であった。二人は暗黙の内に示し合わせ、編隊を少しずつ細長い二等辺三角形へと狭めていた。普段なら「カミーユっ、ランバンっ! 勝手してるんじゃないっ!」とハスキーな金切り声が聞こえてくるところである。だが今は、その気配すらなさそうだった。それだけレコアの意識が前方――シャアにだけ注がれているということに他ならない。
三人の向かう先に火閃の煌めきがある。敵機が放つ黄色い稲光に似たメガ粒子の残照の辺りに、ひとかたまりになったMSたち――赤い《リックディアス》と黒い《ガンダム》がいた。
接近警報が鳴る。未確認機のカーソル表示と該当機種情報無しのサブウィンドゥが開いた。味方機――シャアの《リックディアス》のマーカーも表示される。と同時にレコア機が天頂方向に機体を加速する。背中から張り出したグライバインダーが基底部から光の尾を伸ばした。
面を押し立てて、三方向から敵を包囲するトライアングルフォーメーションである。レコアの動きにカミーユもランバンも、当然の様に編隊位置を通常に戻した。レコアが普段通りなら何の問題もない。要らぬ心配だったのかも知れないが、備えあれば憂いなしである。
この陣形はジオン共和国軍でMSの攻撃力を最大限に活かすためのもので、大戦中に行っていたものを、レコアのアイデアでカミーユたちに叩き込んだのである。バディ意識の強く、訓練もロクにしない、連邦軍上がりのサイド自治政府軍にいた時は協調する者もなく、孤軍奮闘だった。だが、エゥーゴでは部隊数を増やすためにも機数の少ない小隊が歓迎され、レコアがもたらしたジオン仕込みのフォーメーションを奨励していた。
「やらせるかよ!」
カミーユは照準レティクルを無視してビームライフルを撃った。メガ粒子の光の束が真っ直ぐな軌跡を残す。だが、射程外からの攻撃である。追撃の《クゥエル》に命中はしたものの、射程外の攻撃は耐ビームコーティングされたシールドに弾かれ、霧散した。無論、牽制のための射撃だ。ビームライフルを撃とうとしていた《クゥエル》が飛沫粒子を防御してくれればいい。反撃がくることを考え、フォーメーションを外れるのも構わず、加速した
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