第七話 暴発
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なら爺さんの身体は側面から攻めてきた男の陰になる。正面の男は攻撃出来ない。爺さんに背中を刺される、側面の男は慌てて突き出した腕を引き戻して爺さんの頸を狙う!
だが爺さんは身体を沈めていた。男の腕は空を斬った。腕が流れる、態勢が崩れた。爺さんが素早く身体を時計とは逆回りに反転させる。そしてそのまま回転の勢いを付けて右手のナイフを男の喉元に叩き込む。男が左手で喉を守ろうとした、その左手の指を切り飛ばしつつ爺さんのナイフは一気に喉を切り裂いた!
噴出する血を四方に撒き散らしながら男は横倒しに倒れた。暗闇でも何が起きたか分かる凄惨な光景だった。正面の男も動けずにいる。爺さんが構えた。半歩前に出ると正面の男は下がった。明らかに押されている。殆ど戦意は喪失状態だろう。突然光が現れた。声がする、俺の名を呼んでいる、ロイエンタール、ミッターマイヤーか。味方が来たようだ。
不利を悟ったのだろう、爺さんの正面の男は後退した。キルヒアイスの周りにも敵は居ない。声が近付いてきた、もう大丈夫だ、爺さんに近付いた。キルヒアイスも傍に来た。
「爺さん、おかげで助かった」
声をかけると爺さんがふーっと大きな息を吐いた。
「年は取りたくねえな、身体が思うように動かん」
「冗談だろう?」
「本当だよ、十年前ならあいつも殺してたさ、逃がしはしねえ。今は激しい動きをすると息が上がる。バレねえ様に芝居するのが一苦労だ」
まさかと思ったが爺さんは苦い表情をしている。本当なのか。キルヒアイスも驚いている。
「御無事でしたか、ミューゼル大将、リュッケルト大将」
声をかけてきたのはロイエンタールだった。彼の後ろには十人程の兵が付いていた。爺さんが“助かったぜ”と言った。
「良く来てくれた。卿が来てくれたお蔭で連中も撤退したようだ」
「いえ、もう少し早く来られればと反省しております」
もう少し早く来ればか……、もし来ていればアレを見る事は無かっただろう。
ミッターマイヤーが来た。やはり十人程連れて来ている。どうやら遅れたのは逃げる連中を捕まえていたようだ。二人程襲撃者を捕えている。
「白状しました。ベーネミュンデ侯爵夫人に金で雇われたようです。グリューネワルト伯爵夫人、ミューゼル大将を殺せば出世させてやると」
ミッターマイヤーの言葉に皆が顔を見合わせた。
「終わったな」
爺さんの言葉に皆が頷いた。
「顔を潰されたリヒテンラーデ侯がベーネミュンデ侯爵夫人を許す事はねえ。後は皇宮警察と憲兵隊に任せようぜ」
また皆が頷いた。爺さんの言う通りだ、ベーネミュンデ侯爵夫人は終わった。予想外だったが出兵前に片付いた。これで心置きなく戦争に集中出来るだろう……。
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