第七話 暴発
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な表情だ。全く同感だ、初めて意見が一致したな。
「言葉にするのも汚らわしい事ですが姉に陛下以外の男の子供を身籠らせろと命じたそうです。そうなければ私も姉も一緒に始末することが出来ると。自分がまた寵姫として陛下に召されると」
「愚かな……」
ノイケルンがウンザリといった表情をした。気持ちは分かる、俺もウンザリなのだ。グレーザーもウンザリしていた。
「グレーザーは危険だと考え何人かに手紙を書いたのです。そして念のため私の所に……」
「真相を伝えに来たか」
俺が頷くとノイケルンが大きく息を吐いた。顔を顰めている。
「彼はそれだけ危険だと思っています。今は何とか侯爵夫人をあしらっていますがそろそろ限界だと……。このままでは夫人が暴発しかねないと怯えているのです。私も危険だと思いました、それで閣下にお伝えしようと……」
あくまでしおらしく、そしてノイケルンを立てる。一昨日、昨日をかけて作ったシナリオだ。グレーザーを呼んで確認しながらの作業のため思いの外時間がかかった。
「如何なさいますか?」
俺が問い掛けるとノイケルンの眉がピクッと動いた。
「侯爵夫人を放置するのは危険ではありますまいか。一つ間違うと陛下の御威光、帝国の威信に傷が付きかねません」
「……」
また眉がピクッと動いた。
「ベーネミュンデ侯爵夫人は元寵姫でありながらそれすら分からなくなっているようです。このままでは……」
「そんな事は卿に言われなくても分かっている!」
「申し訳ありません」
吐き捨てるような口調だった。俺に指摘されたのが面白く無いらしい。
廷臣達がもっとも嫌がるのが陛下の御威光、帝国の威信に傷が付く事だ。その危機を見過ごしたとなればノイケルンは失脚せざるを得ない。何と言っても事は宮中の問題でノイケルンは宮内尚書なのだ。俺を叱責はしたが困っているな、どう対応して良いか分からずにいる。今のノイケルンは窮鼠だ、下手に突けば噛み付くだろう。だが……。
「閣下、この手紙は国務尚書、リヒテンラーデ侯にも送られているそうです」
「何? リヒテンラーデ侯に?」
「はい、如何でしょう、閣下から手紙の事をお話しなさっては。国務尚書閣下もこの件は気に留めておいでではないかと思うのです」
「そうだな、侯の御意見を伺った上でどうするかを検討した方が良かろう」
ほっとした表情だ、声も明るい。責任をリヒテンラーデ侯に押し付けられると思ったのだろう。窮鼠は逃げ道を得て臆病な鼠に戻った。これでリヒテンラーデ侯を捲き込む事が出来る。リヒテンラーデ侯も政府閣僚であるノイケルンに頼られた以上政府首班として知らぬ振りは出来ない。
“味方を作れ、自分より、相手より立場の上の奴、そして直接の担当者を味方にしろ。大義名分を得るんだ。そうなれば相手は孤立する”。
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