第百七十六話 手取川の合戦その五
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「そしてわしもじゃ」
「殿もですか」
「ここは」
「ついて参れ、前に出る」
その戦の場にというのだ。
「上杉謙信をこの目で見つつ戦をしようぞ」
「では我等も」
「お供します」
万見と稲富達も応えてだ、そうしてだった。
信長は前に出た、そのうえで自ら謙信を見た。謙信は今は柵を飛び越えてはいないが恐ろしいまでの攻めを続けている。
上杉軍からも弓矢が来る、確かに数は織田のそれの方が上だ。
しかしだ、その威力と正確さはというと。
織田よりも上だ、将兵達は次々と倒れていく。信長もその弓矢を至近距離でかわしながらそのうえで言った。
「これは強いのう」
「はい、数はこちらが上ですが」
「それでも油断できませぬ」
柴田と佐久間がその信長に言ってきた。
「柵で突進は防いでいますが」
「それでも」
「うむ、流石は軍神じゃ」
謙信を褒めもする信長だった。
「臆することはないか」
「こちらの傷も馬鹿になりませぬ」
滝川も信長に言ってきた。
「何分敵の弓矢は強うございますので」
「そうであろうな」
「殿、ここはどうされますか」
「変わらぬ」
これが信長の返事だった。
「これまで通りじゃ」
「それでは」
「このまま鉄砲と弓矢を放ちじゃ」
そうしてだというのだ。
「長槍を出してじゃ」
「敵を寄せぬのですか」
「そうじゃ、どちらも止めるな」
鉄砲も弓矢もというのだ。
「放て、よいな」
「このまま」
「そういうことじゃ。止めれば敗れる」
その時にだというのだ。
「だからじゃ」
「では今は」
「止めることなく」
「撃て」
ただひたすら、というのだ。
「そして槍を出せ、よいな」
「傷ついた者、疲れた者は下がれ」
ここでこう言ってきたのは丹羽だった。
「そして後ろの者と代わるのじゃ」
「そうしてよいのですか」
「その時は」
「無理はするな」
戦えども、というのだ。
「代わるがわる戦ってじゃ」
「そしてですか」
「戦えと」
「案ずるな、数は我等の方が多い」
織田家の方が三倍は多い、丹羽はこのことを言うのだった。
「だからじゃ」
「その数も使ってですか」
「戦えと」
「そして飯も食え」
それもしろというのだ。
「昼になれば交代でな」
「そうして戦いですか」
「死ぬなと」
「そうじゃ、疲れれば休み飯を食い怪我の手当をしてじゃ」
そうしていってだというのだ。
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