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戦国異伝
第百七十六話 手取川の合戦その四

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「撃て、そしてじゃ」
「敵を近寄せるでない」
「とにかく撃ちじゃ」
「敵を柵まで寄せぬことじゃ」
 二人が言うことは単純だった、そして実際に。
 兵達をその謙信が来る方に集結させてだ、そのうえで。
 鉄砲の間合いに入るとだ、柴田が叫んだ。
「撃て!」
「はっ!」
 鉄砲を持つ兵達がすぐに応える、そして。
 雷の様な音が戦場に鳴り響いた、そのうえで。
 無数の鉄砲から弾が放たれた、それを受けて。
 上杉の兵達が倒れていく、だが。
 上杉軍は怯まない、その彼等に。
 さらにだ、今度は佐久間がだった。
 弓矢を放たせる、それも続けて。
 それからまた鉄砲が放たれまた弓矢が。その攻撃でだった。
 上杉軍の兵の多くが倒れた。だがそれでもだった。
 上杉軍は来る、それを見てだった。
 信長は唸ってだ、こう言った。
「まだ来るとはな」
「はい、このままでは」
「柵に」
 万見と稲富が応えてきた。
「迫られます」
「危ういかと」
「長槍も出すのじゃ」
 柵の中から、というのだ。
「それで敵を寄せ付けるでない」
「次はですか」
「長槍ですか」
「そうじゃ、柵は崩させるな」
 このことは絶対に、というのだ。
「柵が我等を防いでくれておるからな」
「その柵を守ることが」
「我等を守ることだからこそ」
「今はですか」
「柵を守るのですな」
「そうじゃ、近寄せるな」
 決して、というのだ。
「おそらくここで防いでいるとじゃ」
「次は、ですか」
「上杉もまた」
「あちらにも鉄砲はある」
 織田よりも数は遥かに少ない、しかしあることにはあるのだ。
「そして弓矢もな」
「その鉄砲と弓矢を使ってくる」
「そうしてきますか」
「武田もそうじゃったな」
 先に戦った彼等もだった、確かに。
「こうして防いでおればじゃったな」
「はい、弓矢を使ってきました」
「騎馬隊からも」
「弓矢は馬に乗っても使える」
 このことは源平の頃からだ、那須与一だけではない。
「武田や上杉の兵はそうした戦も得意じゃ」
「だからこそ両家の騎馬隊は強い」
「弓矢も使えるからこそ」
「そうじゃ。しかしじゃ」
 それでもだと言う信長だった、ここで。
「それは我等も同じじゃ、むしろじゃ」
「はい、鉄砲や弓矢の数もです」
「我等の方がうえです」
 もっと言えば騎馬隊の数もだ、織田の方が遥かに多いのだ。
「我が軍は足軽しか弓矢は使えませぬが」
「それでも」
「そうじゃ、だからな」
「ここはですな」
「弓矢も使い」
「敵を寄せ付けるでない」
 とにかくそれに徹しろというのだ。
 そしてだ、信長はこうも言った。
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