第百七十六話 手取川の合戦その二
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「長槍もありますし」
「それにあれもとなると」
「丸太もよかったですが」
「あれもですな」
「うむ、丸太以上に使える」
この場合はというのだ。
「だからあれを置いたからな」
「敵にも陣に入らせずに」
「負けぬ戦が出来る」
「そうなりますな」
「上杉謙信が陣中に飛び込んでもじゃ」
先の戦の様にだ、そうしてきてもだというのだ。
今度はだ、信長は可児や後藤の顔を見て言ったのだった。
「御主達がおる」
「謙信公の相手はですか」
「それがし達が」
「うむ、務めよ」
二人でだというのだ。
「本来なら一騎打ちをさせたいが」
「それはですか」
「謙信公が相手では」
「御主達でもわからぬ」
つまりだ、逆に討ち取られかねないというのだ。謙信はその軍略だけでなく武勇も軍神の域に達しているからだ。
「だからじゃ。よいな」
「はい、それでは」
「我等は」
「うむ、今は二人でじゃ」
謙信に向かえというのだ。
「わかったな」
「はい、では」
「殿のお言葉とあらば」
「そういうことでな、ではよいな」
「日の出と共に」
「戦ですな」
「間もなくじゃ」
その日の出が、というのだ。見ればそろそろ周りが白くなろうとしている。
その中でだ、信長は言うのだ。
「戦じゃぞ」
「では」
「いよいよ」
「皆の者、踏ん張るのじゃ」
「ここで」
「何があろうとも」
「さすれば生きられる」
信長も前を見ていた。振り返ることはしなかった。
「よいな、では」
「はい、では」
「ここで踏み止どまりまする」
将兵達も応えてだ、そのうえで。
彼等は日の出を待った、東から徐々に白くなってきて。
闇が消えた、すると織田軍の前にあったのは。
柵だった、上杉の者達はその柵を見て言った。
「柵!?」
「昨日の夜のうちに作っておったのか」
「だから昨夜あれこれと動いておったか」
「そうであったのか」
こう言うのだった。
「柵で我等を防ぐか」
「少なくとも雪崩れ込むことは出来ぬな」
「あれが邪魔でな」
「見事です」
謙信もその柵を見て言う。
「あの柵があれば鉄砲も弓矢も安心して放てます」
「そして長槍も」
兼続はそれもだと後ろから謙信に言った。
「それもですな」
「そうです、柵の向こうから長槍を出せば」
織田家のあのとてつもなく長い長槍をだ、それを柵の中側から出せばだった。
「かなりの守りになります」
「織田軍は守るつもりですか」
「間違いありませんね」
まさにそうだと答えた謙信だった。
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