第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
七月二十四日:『涓滴岩を穿つ』
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……
……
確実に昏倒させた古都に拘束用の手錠を嵌めてから視線を外し、溜め息一つ。まだ、何も終わっていない。その確認だ。
「向こうも向こうで、ヤバい事になってるみたいだな! 急ぐぞ、黒子ちゃん!」
見れば、二キロ程先だろうか。原子力発電所の方に向けて────特撮映画の怪獣じみた、頭らしき場所にボロボロの『天使の光輪』を備えた巨大なものが、躙り寄っていっている。
足元の建造物、薙ぎ倒しながら。いくらなんでも原発は洒落にならないと、嚆矢は疲労困憊の身体に鞭打つ。
「何を言ってますの。先ずは、貴方の怪我の手当てが先ですの」
「大した事無いって、こんなモンは唾付けときゃ治っアイタタタ……」
「それで治れば死人なんて出やしませんの、大人しくなさいな。第一────あそこには」
対し、同じものを見ながらも落ち着き払った黒子。嚆矢の左腕を背中側に捻って膝と腰を折らせ────ブラックホールに抉られて結構な血を流す、彼の首にハンカチを当てる。
そこに、漸く『遠見』の神刻文字が効いてくる。先ず、見えたのは……宙を舞う、一つのコイン。そして────右手を差し出す、茶色のセミロングの彼女は。
「お姉様……学園都市の第三位、『超電磁砲』御坂美琴、その人が居ますもの」
コイン、弾かれて。収斂するローレンツ力が、対象を超音速へと加速して─────怪獣の体を撃ち抜く。あれこそ、御坂美琴の代名詞。
最早、戦車砲クラスの破壊力だ。超電磁砲、怪獣の体内の、『何か』を吹き飛ばし、撃ち砕いて。
『…………………………!!!??』
遠すぎて、唸り声にしか聞こえないが……恐らく、『核』のような物を破壊されたのか、カタチを保てなくなった怪獣──後に『幻想猛獣』と呼ばれたもの──が、バラバラに崩壊していく。
それは、まるで……生まれ落ちた命が、先ず上げるモノに。『産声に似ていた』と、何故かそんな、感傷的な事を思った。
「……男前過ぎるよなァ、アイツは。大体一人で何とかしちまいやがる」
「あら、そこがお姉様の素敵なところなんですのよ……今、警備員に初春が保護されたそうですわ。木山春生も、確保されたと」
「そっか……事案終了っと」
息を吐き、どすんと腰を下ろす。黒子が押さえてくれていた首の傷、ハンカチが当てれたそれを、自分の左手で押さえる。代わりに、黒子は嚆矢の前に移動してしゃがみこむ。
白いハンカチは、既に半分近く紅い模様に染まりつつある。アドレナリン全開で痛みなどはないが、結構な出血量らしい。
「そうでしたわ、右腕────あんな訳の分からないものに刺されて、大丈夫なんですの?」
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