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ストライク・ザ・ブラッド 〜神なる名を持つ吸血鬼〜
錬金術師の帰還篇
35.水精の剛硬
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いことに気づいた。
このフェリーは先ほどの粒子砲で真っ二つに引き裂かれた。それなのにいまだ沈んでいない。
「氷!? 海が凍りついて船を支えて……!?」
立ち上がった雪菜の言葉に友妃も周囲をのぞいて絶句した。フェリー周囲の海面が、半径数百メートルほどにわたって氷結している。
凍結魔法──だが、これほどの範囲を一瞬で凍結させることができる存在など彼らの眷獣しかない。
世界最強の吸血鬼と伝説の吸血鬼、第四真祖と“
神意の暁
(
オリスブラッド
)
”の眷獣だ。
「……錬金術師どもが創り出した屑鉄を相手に無様な姿だな、少年」
呆然と立ち竦んでいる雪菜と友妃は、聞き慣れた少女の声に反応する。
声の主は暁凪沙だ、しかし、その口調は明らかに別人のものだった。
どこからともなく現れた凪沙が、金属化した古城の方へと近づいてくる。
髪を解いた彼女は普段よりもずいぶん大人びてみえる。
「だが、最後までこの娘を護ろうとしたことは褒めてやろう」
凪沙の指先が、古城の頬をなでる。
「それに免じて少しだけ力を貸してやる。目を覚ますがいい、
水精
(
サダルメリク
)
──」
そう言って凪沙は古城の唇に、自分自身の唇を重ねる。
驚きに二人は瞬きさえも忘れるほどだった。
「え!?」
すると金属化していた古城の肉体が瞬時に生身を取り戻す。
そうなることをわかっていたように凪沙は古城に背を向け去っていく。それを止めようとする雪菜だったが、凄まじい魔力がフェリーを揺らし出した。
「せ、先輩!?」
魔力の源は古城だった。眷獣が覚醒しようとしているのだ。しかし無理やり叩き起こされたことで、眷獣が怒り狂っている。
このままではフェリーが沈む。
「駄目です、先輩! 目を覚まして!」
爆発的な魔力に圧倒されながらも、雪菜が叫んだ。このままの状態で“
賢者
(
ワイズマン
)
”と激突すれば確実にフェリーは消滅する。
暴走する古城を止めたいが、友妃は気を失っている彩斗と夏音を護るので精一杯だ。
「くっ……!」
雪菜が“雪霞狼”を握りしめて古城へと突進する。
「──先輩!」
雪菜の槍が一閃する。
巨大な魔力の波動が一瞬途絶える。その刹那、雪菜が古城の懐へと飛びこんで、無防備に立っている古城の背中に腕を回して、唇を重ねる。
吸血鬼の暴走を止めるには、吸血衝動で書き換えることだ。眷獣に意識が乗っ取られた古城を覚醒させるために雪菜は、血を捧げるつもりなのだろう。
すると古城は荒々しく雪菜を抱きしめた。そして無抵抗な雪菜の唇を強く重ねる。本能のままに血を欲している。
「あ……」
雪菜から吐息が洩れる。
古城が彼女の首筋に牙を埋めたのだ。
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