魔石の時代
第三章
世界が終わるまで、あと――1
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悪くなるぞ」
ああ、確かに夢見は悪そうだ。その怪物は、ネズミの化物どもを端から斬り捨てていく。妙にリアルな血の匂いに思わず吐き気がした。狼であるアタシが血の匂いに怯えるなんて、全く悪い冗談だ。その怪物の視界に入らないように、慌てて周囲に結界を張る。本能は、今すぐここから逃げ出すべきだと叫んでいた――が、
(それはダメだ。何が起こっているか見届けないと……っ!)
最悪、フェイトに危害が及ぶかもしれない。この半月ほどで少なからず信頼を寄せる様になったこの魔導師が、アタシと同じように――あるいはそれ以上に彼を信頼している主を傷つけるところなど見たくはない。そのためにも、見届ける必要がある。
……――
「何だ、まだいたのか?」
それからどれくらいその殺し合い――いや、一方的な殺戮劇を見ていただろうか。光が動きを止め、のろのろとこちらを見ていった。どうやら、正気に戻ったらしい。
「当たり前だろう」
それは本当に光か? あの怪物ではないと断言できるか?――そんな恐怖を飲み込んで、何でもないように告げる。完全に人間の姿になっていて良かった。尻尾でも見られれば、虚勢である事が一目瞭然だ。
「それで、一体アンタはどうしちまったんだ?」
この問いは、もっと早くすべきだったのかもしれない。あの温泉宿で済ませておくべき質問だったのかもしれない。あるいは、答えなどないのかもしれない。だが――
「……少し長くなるぞ」
「構うもんか」
観念したようにため息をついてから、光は自らの右腕を示しながら言った。
「俺達魔法使いは、正義のための人殺しだと言う話はしたか?」
彼が語り出したのは、『魔法使い』という生き方だった。故郷を奪われ、弾圧され、忌み嫌われながら、それでも『正義』のために魔物退治を――魔物と化した人間を殺し続ける。そんな生き方を。
にわかには信じがたいが――なるほど、そんな生き方をしていれば、命のやり取りに慣れ切っているのも納得できる。
「だが、魔法使いの使命はそれだけじゃあない」
「それだけじゃない?」
右腕の包帯を少し緩める。その掌にはZのような形をした奇妙な痣があった。
「ああ。ただ殺しただけでは魔物化した人間の魂……その思念は、その強欲さゆえに再び魔物化する事がある。だから、その魂を生贄として自らに封じ込める必要がある」
他人の魂を取り込む。それがどういった行為なのか想像もつかないが――それでも、嫌なイメージしか思い浮かばない。
「そんなことして、平気なのかい?」
「まさか。魂を取り込めば取り込むだけ、その代償として右腕は侵食され異形となり、いずれは自分自身が魔物となる」
右腕。確かにあの『怪物』が目を覚ます直前、光はその右腕を意識していた。
「つまり、アンタのここ最近の殺気だった感じはその代償とや
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