禁断の果実編
第107話 からっぽの城
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ピーピーピー。
スマートホンのタイマー音。光実がポケットからスマートホンが音源だった。
「すいません。ちょっと仕事の時間なんで。舞さんはここにいてください。後でちゃんと色々整えて、迎えに来ますから。――碧沙、舞さんをよろしくね」
「うん。行ってらっしゃい」
光実が遺跡を出て行った。舞はヘキサと共に遺跡に残された。
適当な岩に、ヘキサと並んで腰かけ、舞はつい口にした。
「ミッチ、いつのまにあんなふうになっちゃったんだろうね。なんだかあたしの知ってるミッチと別人みたい」
白い王に舞たちを預けるにしても、昔の光実なら、まず舞とヘキサの意思を確認してからにしただろう。
それが今は、有無を言わせずだった。
「さっき言った“仕事”、何のことかごぞんじですか?」
「?」
「あそこにある棺。あの中に、王さまのお妃さまの遺体があります。光兄さんはお妃さまを甦らせるための燃料役を、貴兄さんと一緒にやってるんです」
「貴虎さんがいるの!? ……ねえヘキサちゃん、何でそんなふうになっちゃったの? 知ってるなら教えてっ」
ヘキサは、ぽつり、ぽつり、話し始めた。
――貴虎が真正面からタワーに踏み込んで光実を奪還しようとしたこと。しかし失敗し、今は兄弟揃って、王妃復活のための“燃料”にされていること。
「ちょっと前にも、光兄さんは、心が二つに裂けそうだったことがあります。あの集会、おぼえてますか?」
舞ははっとした。地球の危機を訴えようとした集会で、光実はインベスを召喚して邪魔しようとした。舞自身は光実を恨めなかったから、うやむやに許すことになったが。
「あの時の後で分かったんですけど、光兄さん、死ぬつもりだったんです。高司さんたちを傷つける前に、って。なんとか助かりましたから、よかったけど」
ヘキサは目尻に滲んだ雫を指で拭い、続きを話した。
「今回の貴兄さんのことも、そうでした。先に嫌われておいて、自分を犠牲にするやり方で敵に付いた。味方だった人たちと戦う時、皆さんが苦しまなくていいように」
「そこまで……何で、何で! 何でミッチはそんなに自分を大事にしてくれないの!」
これに対し、ヘキサは首を横に振った。
「わたしもよくわかってません。でも、今回のことは、ほんとに高司さんを守りたくてしたことなんです。そこだけは、うたがわないであげてください。おねがいです」
「うん、分かってる、分かってるから」
舞は俯いていくヘキサの両肩を支えた。
今の光実は、信じるには危険すぎる。自分への態度やヘキサの語る所をまとめると、今やパラノイアと言っていいほど、呉島光実の精神は破綻している。
それでも、ヘキサは兄を想い続けている。
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