願いの刃は殻を割く
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て言われた事の方が衝撃らしいですがね」
理解は出来たが納得は出来ず。なんだそのおかしなやり方は、と桂花はもう頭を抱えたくなった。
次に話される事にまたも驚愕するのは目に見えているというのに。
「それからは御大将自ら新兵優先で鍛えに行って、昼メシの時は練兵場に持ってきて隊の大勢で一緒にかっくらって笑い合う。一人でも多くの名前を覚える為に」
「……は?」
「名前をちゃんと呼ばれるのって結構嬉しいんですぜ? さすがの御大将でも前に袁術軍から引き抜いた奴等の名前は覚えきれてませんでしょうが、それまでの奴等のは全部覚えてるはずでさ」
ただの兵相手にそこまでするのか、と桂花の既成概念はガラガラと崩れて行く。命を切り捨て続けるくせに、深く太く絆を繋ぎに行く。桂花にとって全く訳が分からない男であった。
時間の無駄だ、頭も悪くないのだからもっとその頭脳を有意義に使えばいい、そう考えてしまう内は、徐晃隊の想いを理解する事は出来ない。
部隊長の表情は、短い沈黙を経て翳っていく。
「イカレてるんです、御大将は。他の将達みたいに放っときゃいいのに。命じて指し示すだけにすりゃいいのに。上と下をしっかりと分けりゃあいいのに。苦しむなら、仲良くならなきゃいいのに。そこまで……しやがるんですよ。
死んだ奴等を弔う時は涙堪えてるのがバレバレで、嫁が出来た子供が出来たと言えば親兄弟のように喜んで、自分の休日にも関わらず俺達みたいなむさい野郎共相手にわけわかんねぇけど楽しい悪戯とか仕掛けて来て、俺らみたいのにからかわれたらへたれながら怒って、普通の男がするように女の好みの話で、笑い合って……俺達に、本気で付き合って、向き合って……戦場までの楽しい時間を、一緒に過ごしてくれるんでさ」
震える声を耳にして、桂花は思考に潜る為に逸らしていた視線を戻した。そこには必死で涙を堪えている部隊長が居た。
雛里は立ち上がって、無言で隣の部屋に向かっていった。少し、肩が震えていた。知っているが故にこれ以上は聞いていられなかった。
グイと袖で目を拭って、部隊長は続ける。
「荀ケ様、俺達の御大将は平穏な世界を確かに作ってくれてるんだ。いつだってあの人は、俺達の幸せを願ってくれてる。“世界を変えたいけど出来るだけ兵士になってくれるな”、“兵士になって近しいモノを悲しませるとしてもそいつらとそいつらから向けられる想いを大切にしてやれ”、“人を殺すなら罪を知りながらも他の奴等に幸せを与え、自分も探せ”……バカ野郎だろ? 本当に、矛盾だらけのわけわかんねぇ大バカ野郎なんだ」
胸に込み上げる想いからか、部隊長は言葉遣いを投げ捨てた。
「義勇軍での最古参の始まりの日、御大将は俺達に憎めと言ったらしい。敵を殺せ、戦って死ねと命令する自分を最後には憎ん
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