願いの刃は殻を割く
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「『嫁とか子供がいる奴は実家帰るか相手の家を訪ねて、自分が死んだ時家族を頼みますと頭下げて来い。子供が働ける年齢の奴は自分の子供に対して死んだら妻をよろしくと頭下げて来い。独り身で親がいる奴は親に頭下げて、親がいない奴は友とか恋人に“死ぬかもしれねぇから”って話して来い。大切だと思える奴等にこれから殺し殺される戦場を仕事場にするってしっかり伝えて来い。大切な奴等に引き止められて迷った奴は帰ってくるな。徐晃隊の入隊試験に耐えたなら働き口くらいあるだろうよ。親なんかどうでもいいとか、自分が一番だとか、誰よりも強くなりたいって奴等は副長の全ての指示に従え』……って命令です」
口を開け放った桂花の思考は止まっていた。
死を覚悟するのは兵士になるなら当たり前……そんな風に思っていたから、わざわざそれを命令してまでやらせる意味が分からなかった。
「ああ、親も友達も恋人もいない奴は一緒に酒飲みに行こうっての忘れてまし――――」
「な、なんなのその命令……なんでわざわざ、個人の責任なのに命令するのよっ」
疑問の言葉で止められ、部隊長はまた、苦笑を零した。やはり……御大将の元で戦えて良かったと、歓喜に心を染めながら。
「わざわざ命令してくれるから、自分が守る大切なモノ達が向ける想いと、兵士になるってのがどういう事かを無理矢理教えて貰えるんですよ。親に殴られる、嫁に殴られる、子供に殴られる、友達に殴られる、恋人に殴られる……さすがに言い過ぎですが、多かれ少なかれ怒られたり泣かれたりしてくる奴等ばっかりです。死んじまったら残した奴等に、度合いや種類の違いはあっても迷惑かけちまうんですから。副長に着いて行かされる一匹狼な奴等は、御大将には死に物狂いで強くなった副長でも勝てねぇって現実を知ったり、真っ直ぐの想いをぶつけられて再び心がぶち折られますが……これは置いときましょうか。
俺だって、親がもういねぇから妻とあちらの親御さんに頭下げました。嫁と嫁のおやじさんに思いっ切り殴られましたぜ。ありゃあ痛かったなぁ……」
すりすりと自分の頬を摩っての一言。隣の部屋を見つめる瞳は愛おしさと感謝を含んでいた。
「桂花さん」
隣からの声は涼やかに耳を通る。鳳凰の冷たい声では無かった。雛里の優しい声であった。
横を向くと、翡翠の瞳がゆらゆらと揺蕩っていた。
「その命令の効果は、親、伴侶、子供、友、恋人……大切な人達を悲しませると知っていながら、大切な人達から引き止められても、死ぬかもしれない戦場に向かえるか、自分が守りたい、為したいと思うモノはなんなのか……それを確かめさせて、生き残ろうとする衝動と死んでも貫きたい意思の力、矛盾した二つを両立させるんです」
馬鹿げている、と瞬間的に桂花は思った。
されども、ゆっくり
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