願いの刃は殻を割く
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て行きました」
思い出した為か恥ずかしいようで、妻は少し頬を染めていた。
彼ならどうするんだろう、と雛里は考えそうになるも、ほんの僅かだけ首を振って思考から追い遣る。
「帰ってきた時は泣いて喜びました。ええ、あのバカも泣いてましたよ。心配掛けてごめん、ただいま、そんな言葉が嬉しくて嬉しくて仕方なかった。でも……その戦が終わってから、夫は夜な夜な泣いていたんです」
ぎゅう、と雛里の胸が締め付けられた。戦の結果を思い返して翡翠がゆらゆらと揺れる。
「第一と第二の最精鋭が全滅、徐晃様も重傷を負ったと聞きました。
申し訳ありません……私はその時に、自分の夫の部隊じゃなくて良かったと、安堵しました」
懺悔を存分に含んだ声。自分の愚かしさを語る、そんな昏い声であった。
自分の夫が死ななかったのだからある意味当然。そう感じない人間が、この世にどれだけいるのだろうか。自分達の平穏こそ最優先だと、普通に生きる民の中にはそう思うものの方が多い。
誰もが綺麗な心を持っているなどと、雛里は信じていない。むしろそういった人間味溢れている人が素直に本心を零してくれたのだから信用出来て、信頼にも足り得る。
ただ、自分の想いを知っていながら口にされるとは思っていなかったが故に、胸がチクリと鋭く痛んだ。されども責める事はしない。
「い、いいえ。構いません。お気になさらずに先を続けてください」
「ありがとうございます」
秋斗は怨嗟を受けていた。詠からの怨嗟も、華雄からの怨嗟も、一人で受け止めていた。
その時の彼の気持ちを少しでも分かりたくて、雛里は声を震わせながらも先を促す。
雛里と目を合わせてから礼を言い、子に視線を移した妻の瞳は潤んだ。
「……子供が出来た時に夫が言ったんです。『俺はこの子が幸せに暮らせる世の中にしたい。この子の友達、恋人、これから絆を繋いで行くはずの人達が奪われない世の中を作りたい。だから、よろしく頼む』と。子供が出来て警備隊に変わった人もいるんだからそうして欲しい、と返す事は、もう出来ませんでした」
ぽつりと零して目を伏せる。そのまま、妻は震える声で紡いでいった。
「笑顔を見せて背中を送り出さないとダメなんだって、夫の心の負担を軽くしてあげないとダメなんだって、愛する人を支えるのは私なんだって、子供の無邪気な笑顔を見て漸く気付きました。
徐晃様は私の夫を奪うんだと思ってました。でも、この子の明るい未来を作ってくれる人でした。夫に対して私の親に頼み込みに行けと命じたのも……全ては戦場以外で生きる私と子供達に、これ以上、乱世で哀しい想いをさせない為。私は親になって初めて、徐晃様とあの人の気持ちが分かったんです。
曇りが取れた心で夫と話すと涙が出ました。どれだけ徐晃様が
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