願いの刃は殻を割く
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間に自然に入り込んで、周りと溶け込んで馴染ませられる桃香や、先だって気にしないでいいからと言ってしまう秋斗は異質な存在であろう。
こうやって頼めるのは、桃香が治めていた地であり、秋斗が率いる徐晃隊の妻であるが故のこと。そして部隊長が雛里には本心を話しても大丈夫だと促していたのも理由であろう。
徐晃隊の皆が自分の事を応援してくれていたのを知っている雛里は一つ頷いた。ほっと息を付いた妻は……視線を掛け布に落として言葉を紡いでいく。
「私は……徐晃様を憎んでいました」
ああ、やっぱり……と雛里は納得がいった。
事前に自分が向けていた感情について前置きした事で、そういった話であると予想は出来ていた。
「あの人が望んだと言っても、戦場に立たせて指揮し、死なせるかもしれないのは徐晃様です。泣き叫んで引き止めても、もう兵士なんてやめてと縋り付いても、あの人は聞いてくれません。徐晃隊に入っていなかったら戦場を仕事場とするのを辞めてくれたのではないかと、いつもいつも考えていました」
兵士は良くても家族はどう思っているのか。例え説得したり、互いに話し合っていたと言っても、わだかまりが出る事は必至。待つ側にも想いはあるのだ。
雛里はただ、じっと黙って妻の話を聞いていた。
「憎みましたよ。あの人を奪う徐晃様が憎い、と毎夜の如く。夫が自慢げに徐晃様の事を話す度に心が軋み、家でくらい仕事場の話をするなと怒鳴ってしまい喧嘩になってばかりでした。自分が戦う意味を分かってほしいと懇願してくる夫にさえ苛立ちを覚え、関係が危うくなったのも少なくありません。私に子供が出来たと分かったからこそ、互いに一歩引いて過ごせました」
ふう、と妻はため息をついた。呆れているようにも、懐かしむようにも感じた。話す声は穏やかで、憎しみの欠片も感じない。
「前の戦に出た時、二か月ほど前ですか。行かないでと縋り付きました。子供の顔を見たくないのか、と……その時、初めて夫は迷いました。大きくなったお腹で泣き、行かないでと言う私を見て、いつもなら振り返りもしないのに脚が止まったんです」
過去を思い出し、自分との違いを認識して雛里の瞳はぶれた。
行かないでと言わず、無事に帰って来てくれると信じていつも待っていた。それは秋斗が兵士とは違う将であり、自分が軍師として献策する立場にあったからこそ出来た、そう思った。
もし、決死の戦場に送り出すと決まっていたらどうなっていたのか。そう考えてしまうと……恐怖が心に湧き出てくる。自分も同じように止めていただろう、それでも秋斗は向かっただろう、と。
「あの人は振り返って……私を抱きしめました。帰ってくる、なんて口にせずに、謝りもせずに……滅多に言わないくせに“愛してるぜ、二人共”とだけ言って微笑んで、出
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