暁 〜小説投稿サイト〜
ストライク・ザ・ブラッド 〜神なる名を持つ吸血鬼〜
錬金術師の帰還篇
34.洋上の慮外
[4/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
かし、偽った笑みだと一瞬でわかる。

「ニーナ、彩斗!」

 古城の声に彩斗は飛行船へと歩みを進める。

『絶対帰ってきてください』

 ラ・フォリアの声に彩斗は不器用な笑みを浮かべて一言だけ返した。

「当たり前だ!」




 叶瀬夏音はフェリーの船首に一人きりで立っていた。
 背後には見渡す限りの青い空と、紺碧の海。
 そこに白いコートを着た錬金術師が、彼女を追い詰めるように甲板に立っている。

「鬼ごっこは終わりだよ」

 無邪気に微笑みを浮かべながら、両腕を広げて天塚が言う。
 夏音は逃げるように後ずさる。しかし彼女の背中はすぐに手すりにぶつかった。もう逃げ場はない。
 だが、夏音の瞳は、天塚を哀れむように見つめて揺れていた。

「まだ思い出せないのですか」

 夏音が唐突に問いかけた。天塚がかすかに表情を震わせた。

「……なに?」

「私はあなたのことを覚えていました。修道院のみんなが殺されたときのことも」

 夏音はまっすぐ天塚を見つめている。

「あなたは、可哀想な人でした。自分が騙されていることにも気づいていない」

「なんのことだよ?」

 天塚が苛々と訊き返す。

「“賢者(ワイズマン)”を復活させて、あなたはなにをしたかったのですか?」

「決まってるだろ。人間に戻るんだ。あいつに喰われた僕の半身を復活させてもらうんだよ! でなきゃ、誰がやつのいいなりになんかなるものか!」

 天塚がそう言って、コートの襟元を引き裂いた。金属生命体に侵食された不気味な右半身が露わになる。それでも夏音は表情を変えない。

「だったら教えてください。あなたはいったい誰でしたか……?」

「え?」

「あなたが本当に人間だったというのなら、そのころの思い出を聞かせてください。あなたがいつ、どこで生まれて、どんなふうに生きてきたのかを──」

 夏音が質問を終えると静寂が訪れた。
 天塚は答えられない。答えることができないのだ。その事実は天塚をじわじわと追い詰める。

「黙れよ……叶瀬夏音……」

 天塚が絞り出すように呟いた。

「“賢者(ワイズマン)”はあなたの願いを叶えたりはしない。なぜなら、あなたが人間だったことはないのだから。あなたは“賢者(ワイズマン)”が自分を復活させるために創り出した──」

「黙れええええっ!」

 天塚がついに怒声を放った。刃と化した彼の右腕が、夏音の心臓をめがけて突き出される。それを彼女は避けられない。
 自らの死を覚悟した夏音の耳は祝詞をとらえる。

「虚栄の魔刀、夢幻の真龍、荒れ狂う生命(いのち)の源より、悪しき者を浄化せよ──!」

 突如として出現した水流の刃が天
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ