第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
第三節 蠢動 第三話 (通算第53話)
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る。想定範囲を越えた事態に、基地全体がパニック状態である。予定外のことなどという問題ではなかった。
無論、メズーンにとってはチャンスであるが、目指すべき《ガンダム》が眼前に墜落しているなど、考えもしない。一瞬、呆けて見入ってしまった。
遠くに聞こえたサイレンで我に返る。
(これは……何号機だ?)
突然の災難に頭も体が反応できていなかった。特に耳鳴り――平衡感覚が不調を訴えている。周囲に気を置きながら《ガンダム》の様子を窺った。
「ジェリド中尉だ!」
微かに誰かの声がした。声は遠く、明瞭ではない。恐らくティターンズの下士官であろう。付近に人影はなかった。見渡すと、連絡通路の向こう側に人が集まり始めていた。軽傷の怪我人が、事態の把握に現場へ来たようだ。《ガンダム》の足許にも人だかりができていた。
メズーンは軽い脳震盪を起こしているような頭を振って、記憶を手繰り寄せつつ、平衡感覚が戻るのを待った。怪我がないか体を動かして確認する。多少の打ち身はあったが、行動に支障がある程ではない。
(ジェリド中尉は……《03》の筈だ)
そこからは左肩のマーキングが見えなかった。目指すべき機体ではないのなら、長居は無用である。人が来る前に、立ち去った方がいい――そう判断すると、墜落した機体から離れた。案の定、幾人かのティターンズとすれ違う。だが、誰もメズーンを訝しがらなかった。
チャンスだ。
今なら周りも混乱している。然程怪しまれずに格納庫にある《ガンダム》に取りつく絶好のチャンスだ。閉じ込められるおそれのあるエレベーターを避け、非常階段を駆け降りた。今なら非常通路から、格納庫に出ても不自然ではない。
暑い。
制服を脱ぎたい衝動に駆られる。制服は汗を吸わず、シャツがペタリと皮膚に貼り付いた。素性を隠すため、制帽を深目に被っているから余計に暑い。だが今は、そんなことに構ってはいられなかった。スギンっと、左腕に痛みが走ったが、無視した。骨が折れてたいる訳ではない。
「そっちじゃない!こっちこっち!」
「応援回せ!瓦礫を撤去する」
「まだ崩れるぞ!救護班はまだかっ」
指揮系統が混乱し、その場にいる上位者がバラバラの指示を出しているため、現場の無統制ぶりは酷いものだった。
怪我人と死人が一かたまりにされ、崩れた庁舎の残骸を片付けても新しい瓦礫の山が次々に産み出されていた。二次災害を防ぐために、現場レベルで対処せざるを得ないのだ。現場指揮を取る者も、全体を見渡せぬため、命令系統がいくつにも絡み合い効率が悪いことこの上ない。だがそれも、徐々に改善されているように見えた。
混乱が収まりきらぬ内にハンガーにでなければ――焦る気持ちを抑えながら、縫うように人ごみをすり抜けた。墜落現場周辺とは逆に、格納庫周辺は無人だった。
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