第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
第三節 蠢動 第二話 (通算第52話)
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「迎撃して、こうなったんだ。そんなことは敵と相談してくれ。大体、訓練の場所を決めたのは俺じゃあないっ!それに、演習していたから即時対応できたんだ!」
ジェリドは抗議の声を挙げた。佐官とはいえ、一般将校が何を言うんだという表情でもある。普通に聞けば上官に向かって言う台詞ではないが、ジェリドにしてみれば、殴りかからないだけ我慢したというところだ。
ブライトにとっては階級や所属など関係ない。軍人は民間人を守らなければ意味がないと本気で信じている。文民統制されていなければならず、政府に従わなければならない。そして民衆を守って当然であり、その功を誇ってはならないのだ。だが、ティターンズというのはそういうところではない。『力こそ正義』であると信じて疑っていない連中が多く、アースノイドの守護者を気取り、民衆や政府から称賛されるべきだと言う者さえいる。そして、自分たちが手にしている力が権力――職業や職能によって付与された仮初めの力であり、暴力に対する恐怖であるということに気付いていない。生まれながらにしてエリートに育った人間に有りがちな傾向で、幼い頃から特別扱いされているため、自分本来の力と勘違いしてしまうのだ。貴族化した議員一族や軍人に多い。
一見、ジェリドの発言は正しいように聞こえなくもない。だが、軍人としての誇りを見失い、軍隊の中の特権組織として尊大に振る舞う、大局感を持たない者の言い訳でしかなかった。責任転嫁と自己弁護。ブライトが最も忌み嫌うものだ。ブライトは自分がティターンズを好きになれないことを再認識させられた。
「貴様っ……なら、軍人として恥ずかしくない行動を取れ!」
ブライトとしてはギリギリの譲歩であった。頭ごなしに言っても効かないのなら、マニュアル対応させるしかない。だが、ジェリドの反応は予想外のものだった。
ブライトの問い掛けを無視――いや、返事をせずに、その場を離れようとしたのである。ブライトはあからさまな反抗にカッとなった。
「何処へ行くかっ!」
ブライトは艦長としては若い部類であるが、一年戦争で誰よりも複雑な環境で、誰よりもシビアな状況を経験した。そのためか、並の艦長にはない威が滲んでいる。そのブライトが戦場の爆音の中でも届く大音声を発した。魂消る兵士もいた。
だが、ジェリドは面倒くさそうに振り返っただけだ。鈍いのとは違う。全く眼中にないという意思表示なのだ。説明しなければ解らないのかと言いたげに、うんざりした顔を向けた。
「中佐殿の仰る通りに、善処するだけです!自分はパイロットですから、状況に対処するには母艦にある愛機が要ります」
ブライトは耳を疑った。上官の指示なく持ち場を離れれば、敵前逃亡と見なされる。今の様に直属の上官がいない状況下では、次席士官が判断を行うものだが、今からジェリドの愛機のある艦に戻って
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